特例が受けられる取得者の要件

小規模宅地の特例は、誰が相続人となるかによって、適用の可否が決まります。

まずは、被相続人が居住用としていた宅地について見ていきましょう。配偶者には、取得者としての要件はなく、小規模宅地の特例を受けることができます。被相続人と同居していた親族は、相続開始から相続税の申告期限まで、引き続き居住し、宅地を所有した場合に適用されます。相続税の申告期限は、相続開始すなわち、通常は非相続人の死亡した日の翌日から10カ月です。10カ月以内に転居や売却をした場合には、適用されませんので注意が必要です。

次に、被相続人と同居していない親族の場合を見ていきます。被相続人の配偶者や相続開始の直前に被相続人と同居していた親族がいない場合に適用されます。日本国籍を有し、日本に住所があり、相続開始の前3年以内に本人や配偶者の所有する不動産に居住したことがないことが条件となります。宅地を相続し、相続税の申告期限まで所有することが必要です。このケースに該当する別居で本人名義または配偶者名義のマイホームを持っていない子は、いわゆる「家なき子」と呼ばれています。子が親と同居しない場合、家を建てずに賃貸住宅で暮らすことも、相続税対策となります。親名義のマンションなどの不動産に別居して居住していても対象となりますが、親と子の共有名義としてしまうと「家なき子」とは認められなくなります。

被相続人と生計を同一にする親族が共住用としていた宅地の場合にも、配偶者には取得者の要件はありません。被相続人と生計を同一にする親族が相続する場合には、相続開始から相続税の申告期限まで、引き続き居住し、土地を所有した場合に適用されます。宅地を共有相続する場合には、取得者ごとに要件が判断され、合致した取得者の相続部分のみが適用されます。父親名義の宅地に建てた家を同居していた長男と別居していた次男で相続するケースでは、長男の持ち分割合のみが特例の適用対象となります。

二世帯住宅で相続税法上有利に

平成25年までは、二世帯住宅の場合は、親が所有する土地に建てられた独立した玄関が二つある住居では、内部がつながっていなければ、子世帯部分は小規模宅地の特例は適用されませんでした。しかし、内部構造によって二世帯住宅の扱いを変えるのは不合理との観点から、改正が行われました。平成26年1月以降の相続に関しては、区分所有されていなければ、独立した二世帯住宅でも同居と見なされ、子世帯部分に対する宅地にも適用されます。家屋が区分所有となっている場合、従来通り子世帯部分に対する土地は適用されません。親が土地を所有する二世帯住宅においては、相続税上は家屋部分も親の単独登記または共有登記が有利となります。不動産取得税や固定資産税は、区分所有登記の方が有利ですので、登記の際にどちらが便利か考えてみましょう。家屋が区分所有となっているものを単独名義または共有名義に変える場合には、ローンを組んでいれば、抵当権を持つ銀行の同意が必要ですので、現実的には困難なケースが大半を占めます。

例えば、父親が土地を100%所有して、親世帯と長男世帯が同じ床面積の二世帯住宅を建てたケースで、父親が亡くなった場合を見ていきましょう。父親が家屋も100%所有した場合では、母親と長男が50%ずつ共有名義で土地を相続すると、それぞれ小規模宅地の特例を受けられます。しかし、家屋部分の登記が、父親と長男の区分所有であると、適用されるのは、母親の相続する親世帯部分のみとなります。また、母親が亡くなった後、賃貸住宅に住む次男が親世帯部分を相続する場合には、特例が適用されます。また、二世帯住宅ではなく、親の敷地に親世帯の家と子世帯の家を別棟で建て、生計が別である場合は、子が相続する分の宅地には、小規模宅地の特例は適用されません。老朽化などにより建て替えを検討する場合には、二世帯住宅とした方が、相続税上は有利となります。二世帯住宅を建設後に、子が転勤になった場合、家族で赴任先に転居している期間に父親が亡くなると、小規模宅地の特例を受けられません。しかし、妻や子などの同居の親族が引き続き居住し、夫のみが単身赴任をしていれば、生活の拠点として認められますので、特例が適用されます。