「相続で悩んだら税理士に相談」とよく言われる。しかし、税理士に相談するメリットがイマイチよく分からないというのが多くの人の本音ではないだろうか。実はコストを惜しんで単独で申告する方が高くつく。税理士への依頼は費用対効果が大きいのだ。

鈴木まゆ子
鈴木まゆ子
税理士・税務ライター
中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

相続と税理士に関するQ&A

相続,税理士,相談
(画像=PIXTA)

最初に相続と税理士についてよくある質問3つに答えよう。

Q


相続で税理士は何をしてくれるの?

相続で税理士が行うのは相続税の申告書の作成だ。申告書の作成に伴い、不動産など金額のわかりにくい財産の評価、遺産分割協議書の作成、納付書の作成などを行う。相続人の事情に応じて延納などの分割納付の提案や各種相続手続きのサポート、税務調査対策を講じるところもある。

相続で税理士が行うのは相続税の申告書の作成だ。申告書の作成に伴い、不動産など金額のわかりにくい財産の評価、遺産分割協議書の作成、納付書の作成などを行う。相続人の事情に応じて延納などの分割納付の提案や各種相続手続きのサポート、税務調査対策を講じるところもある。


Q


相続を税理士に相談するとどんなメリットがある?

3つのメリットがある。1つ目は相続財産の評価ミスや抜け漏れがなくなる点だ。2つ目は一般人では難しい相続税の節税策をきちんと適用できる点がある。3つ目として手間のかかる税務申告そのものを依頼することで相続人の時間のロスを防げる点が挙げられる。

3つのメリットがある。1つ目は相続財産の評価ミスや抜け漏れがなくなる点だ。2つ目は一般人では難しい相続税の節税策をきちんと適用できる点がある。3つ目として手間のかかる税務申告そのものを依頼することで相続人の時間のロスを防げる点が挙げられる。


Q


相続で税理士に頼むといくらかかるの?

税理士事務所ごとに違うが、通常「遺産総額×0.5~1%」だと想定しておくとよいだろう。ただし相続内容などによって金額は変わる。特に相続人が多かったり、相続財産の数が多く内容が複雑だったりすると別途料金がかかることが一般的だ。

税理士事務所ごとに違うが、通常「遺産総額×0.5~1%」だと想定しておくとよいだろう。ただし相続内容などによって金額は変わる。特に相続人が多かったり、相続財産の数が多く内容が複雑だったりすると別途料金がかかることが一般的だ。

相続税の申告を一人でやるのは大変

相続税の申告書の作成は一般人でもできないことではない。しかし、あまり現実的ではない。相続税の申告には次のような3つのハードルがあるからだ。申告書は10か月以内に提出しなければならない。一般人がこのハードルを短期間に乗り越えるのは大変だ。

●専門用語が難しい

相続税の申告書を作成するにあたっては、難しい専門用語を理解しなくてはならない。「課税価格」「法定相続人」「基礎控除」といった一般人にはなじみのない用語が申告書には並んでいる。「課税価格」「取得財産」「純資産価格」の違いは専門家でないとなかなか区別がつかない。

●節税には細かい知識が必要

相続税には「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減」といった節税策があるが、これらは要件や計算が細かい。特に小規模宅地等は近年税制改正が行われているため、うっかり間違えてしまう恐れがある。相続税は節税可能だが、正しい知識がないと無理なのだ。

●うっかりするとペナルティが怖い

最初の申告で納税すべき相続税が少なすぎたり、あるいは申告不要と思い込んで無申告でいたりすると税務調査が入る可能性がある。これは「うちには財産がないから」と言っている世帯に当てはまる。ここで言う財産は大抵現預金や有価証券だが、実際は自宅や車といった財産も相続税の課税対象だ。税務署の指摘を受けて申告をし直すと過少申告加算税や無申告加算税、延滞税といったペナルティも払う破目になる。

こういうときは相続を税理士に相談すべき

一般人の相続税申告はリスクが高い。特に次のいずれかに当てはまるのなら、早めに税理士に相談したほうがいい。

●相続財産の大半が不動産

相続税は相続財産の時価に対してかかる。この時価は一般的な取引時価ではない。相続税法の通達に示された方法で評価したものが時価なのだ。そしてこの評価が難しい。特に土地に関しては地目や形状によって評価の仕方が異なる。一般人はなかなか正確に評価できない。

●事業承継がある

故人がオーナー社長だと自社株も相続の対象となる。この自社株は事業承継のカギとなる上、評価が非常に細かい。これも不動産の評価と同様、一般人には歯が立たない。

相続で悩んだら税理士に相談しよう

相続で悩んだら税理士に頼んだほうがいいのは何となくわかるだろう。しかしなぜ相談先が税理士なのか。そして、税理士は相続という一連の作業の中で何ができるのだろうか。

●税理士とは

税理士とは平たく言うと「税務の専門家」だ。相続税だけでなく所得税や法人税に関する申告や納税にも携わる。税理士法に定める国家資格を持ち、一般人に代理して申告書を作成・提出することができる。また本来税務調査も一般人に直接連絡が行くのだが、税理士が代わりに連絡を受け、調査に立ち会うことができる。さらに税務相談に一対一で対応できるのも税理士だけだ。

●税理士が担当するのはあくまで「税金」だけ

税理士が相続で携わるのはあくまで税金だけだ。つまり申告書の作成・提出や税務相談に限られる。ただし中には遺産分割協議書の作成や相続手続きをサポートする事務所もある。ただし相続で揉めている世帯の中に入って相続人の代わりに遺産分割の交渉をしたり法律相談に乗ったりして報酬を得ることはできない。こういった法律問題にかかわれるのは弁護士だけとなる。

相続を税理士に相談すべき3つのメリット

相続は申告も含めて税理士に相談した方がいい。報酬をもったいないと思うかもしれないが、時間も労力もかなり節約できる。何より次のような大きなメリットがある。

●相続税の申告書の作成ミスがない

「相続税の専門用語を理解しないといけない」「評価を正しく行わないといけない」といったハードルが一般人の申告にはある。しかし税理士は税務の専門家なのでこういったハードルは最初から乗り越えている。そのため申告書にミスがない。ミスがないということは、税務調査や申告のやり直しといったリスクが低いということだ。

●余計な税金を支払わずに済む

一般人は相続税の申告でミスをしやすい。納税額が少なすぎる申告をしたり、申告が必要なのに無申告で済ませたりする可能性が高いのだ。つまり、後日税務署から指摘を受けるリスクが高い。指摘を受けると無申告加算税や過少申告加算税、延滞税といったペナルティで余計な税金を払う破目になる。

税理士が最初から適正に財産評価を行えばこういったミスでムダな税金を払わずに済む。それどころか、複雑な節税策もきちんと適用し、相続税そのものも正しく節税してくれるのだ。

●税務調査があったら対応してくれる

相続税の申告を適正に行っても、状況によっては税務調査が行われることがある。税務調査では調査官に質問されたらうろたえずに正しく答えなくてはいけない。一般人には荷の重い税務調査だが、税理士に申告を代理してもらうと、大抵税務調査もその税理士が立ち会い、適切に対処してくれる。

相続以外にも税理士はこんなことに対応してくれる

相続税の申告の他、税理士を味方につけておくと以下の点で心強い。

●生前贈与の相談

相続税の節税は事前準備が重要だ。相続税申告時だけでなく、「相続税がかかる財産を早めに子どもに移しておく」といった生前贈与での対策も講じておくと節税効果は高くなる。ただ、生前贈与も特別受益や贈与税の問題があるため、中途半端な知識で実行してしまうと後々のトラブルにつながる。税理士に生前贈与を相談すれば、こういった心配を最小限に抑えて節税できる。

●家族みんなが幸せになる相続のアドバイス

「税理士=節税の専門家」と見られがちだが、状況によっては無理に節税しない方がよいこともある。節税にこだわりすぎると家族みんなが幸せになる相続が実現できなくなるのだ。税理士に相談すれば、無用なトラブルを防げる相続のアドバイスを受けることができる。

●弁護士や司法書士などの紹介

税理士を含め士業はそれぞれ、できる業務に限界がある。そのため、税理士の中には弁護士や司法書士など他の士業と連携している人もいる。他士業とのつながりの強い税理士に相談すれば、トラブルの解決や財産の名義変更も安心して行える。

相続でも税理士にはできないこともある

相続が生じたら税理士に相談するのがベストだが、税理士でもできない業務がある。既述の通り、報酬を得る目的での遺産分割協議での代理交渉や仲裁は弁護士の独占業務であるため税理士にはできない。相続に携わる税理士はいろいろアドバイスしてくれるが、それでも限界があると知っておこう。

どんな税理士に相談すべきか

相続を相談するなら次のような税理士にするとよい。

●相続・贈与を専門に行う

一般人が一生で相続に関わるのはせいぜい1~2回だ。それは多くの税理士でも同じで、年に1~2回、多くても数回がせいぜいである。大抵の税理士は法人や個人事業主と顧問契約をしており、いつもは顧問先のサポートで忙しい。相続税の申告業務はその合間にやるものなのだ。

相続税の経験や知識が豊富な税理士に頼みたいなら「相続・贈与が専門」と看板を掲げている人を探そう。

●民法に明るい

相続手続きそのものは民法で規定される法律行為だ。つまり、相続税は民法での相続の扱いを知らないと正しく申告できないのである。特に生命保険金については、状況次第で民法上の相続財産となったり相続税法独自の相続財産として扱われたりする。依頼をするなら相続税法だけでなく民法にも強い税理士に頼んだ方が安心だ。

●他士業との人脈がある

繰り返すが税理士が相続でできるのは原則税務申告と相談になる。相続人同士のトラブルの仲裁は弁護士に、相続登記は司法書士に任せた方がよい。こういった他士業とのつながりの強い税理士に頼めば、何かがあっても迅速に対処してくれる。

相続を税理士に相談した時の相場は?

一番気になるのは税理士報酬だ。一般的には「遺産総額×0.5~1%」とされている。ただしこれは目安に過ぎない。実際の相続は世帯ごとにまちまちだ。そのため、状況によっては1%以上の報酬を払うこともある。

「相続人が多い」「相続財産の内容が複雑」「財産評価が難しい」「申告期限までに時間がない」といった相続だと、別途報酬を払う可能性が高い。

どうやって相続に強い税理士を探すべきか

最後に、相続に強い税理士の探し方を3つ紹介しよう。

●知り合いからの紹介

一番多いのは知り合いからの紹介だ。相続を経験した人が紹介した税理士だと安心感が強い。税理士側も紹介してくれた人への礼儀からか、業務にあたっては非常に慎重になる。

●SNSをチェック

周囲に相続経験者がいないのならTwitterやFacebookといったSNSを使った探し方がいいだろう。その税理士の発言内容から、日頃からどれだけ仕事熱心かが分かる。

相続税法の規定や財産評価に関して発言している、あるいは生前贈与に関する注意を発信している税理士は知識と経験が豊富だと見てよい。逆に節税策ばかりを発信している税理士はちょっと注意した方がいい。

●無料相談に行ってみる

「SNSや紹介だけでは安心できない」という人は、無料相談に行くとよい。市区町村では大抵月1回、税務相談会を行っている。また、各地域の税理士会の支部でも定期的に税務相談を行っている。自ら相談会やセミナーを行っている税理士も多い。

広報やウェブサイト、電話で確認し、実際に相談に行ってみて感触を確かめてみるとよいだろう。