相続税の計算にはさまざまな控除があり、きちんと適用することで税負担が軽くなったり、場合によっては無税になったり、限定的であるが還付を受けられたりすることがある。

しかし相続税控除額は非常に種類が多く、しかも相続税の計算手順のどこで使うかもバラバラである。

今回は、相続税の11の控除額について、計算手順のどこに影響する控除額か、それぞれの控除についてその意味や計算方法などを解説する。

中村太郎
中村太郎
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

相続税の11の控除額

相続税控除額
(画像=PIXTA)

まずは11の控除額は、

・「課税価格」から控除できるもの
・「課税価格の合計」から控除できるもの
・「各人の税額」から控除できるもの

に分かれる。

まずは、相続税の計算手順を確認しておこう。

●相続税の計算手順

1 相続人や受遺者(遺言によって財産を取得した人)それぞれの「課税価格」を計算する。
2 「課税価格の合計」から基礎控除額を差し引く
3 2を法定相続分に分け、相続税の総額を計算する
4 3を実際に取得した財産の価格で按分し、「各人の税額」を計算する
5 4から税額控除を差し引く

●11つの相続税控除額

・「課税価格」から控除できるもの

1 債務控除額
2 葬式費用の控除額

・「課税価格の合計」から控除できるもの

3 基礎控除額

・「各人の税額」から控除できるもの(その1)

4 暦年課税分の贈与税額控除額
5 配偶者の税額軽減
6 未成年者控除額
7 障害者控除額
8 相次相続控除額
9 外国税額控除額

4~9は数字どおりの順序で控除するが、先順位の税額控除によって相続税額が「0」になる場合、または控除しきれない場合は、後順位の税額控除はせず、その者の納付すべき相続税額はないものとなる。
(相続税法基本通達20の2-4)

・「各人の税額」から控除できるもの(その2)

10相続時精算課税分の贈与税額控除額
11医療法人持分税額控除額

●相続税控除額で還付が受けられるケースとは

「相続時精算課税分の贈与税額控除額」(上記10)がある場合、相続税から控除しきれなかった額があれば還付の対象となる。

還付を受けるには、相続税の申告が必要である。(相続税法第33条の2第4項)

なお上記の4~9の控除によって税額がマイナスになったとしても「0」となる。

したがって9までの過程で還付は生じない。

特に「暦年課税分の贈与税額控除額」(上記4)も贈与税に関する控除であるが、こちらは還付対象にならない。混同しないよう注意が必要だ。

なお、「相続時精算課税分の贈与税相当額」を控除した段階で、納税額がマイナスの場合(還付が生じた場合)や「0」の場合、医療法人持分税額控除額(上記11)は「0」となる。還付の上乗せにはならない。

11つの相続税控除額の意味や計算方法

●債務控除額

被相続人の債務のうち、相続人が負担する額をその相続人の課税価格から控除できるものである。 たとえば未払いの医療費や税金の支払い、借金を負担する場合などが対象となる。

債務控除額は、相続人が実際に負担する額、債務として確実なものに限られる。

たとえば被相続人が借金の保証人である場合、被相続人には主たる債務者に求償する権利があるため、原則的には債務控除の対象にならない。(主たる債務者が弁済不能状態にあり、その弁済不能額が確定している場合は、その額のみ債務控除の対象となる。)

●葬式費用の控除額

被相続人の葬儀のための費用を相続人らが負担した場合、その相続人の課税価格から控除できるものである。

<葬式費用の対象(同通達13-4)>

・葬式若しくは葬送に際し、又はこれらの前において、埋葬、火葬、納骨又は遺がい若しくは遺骨の回送その他に要した費用(仮葬式と本葬式とを行うものにあっては、その両者の費用)
・葬式に際し、施与した金品で、被相続人の職業、財産その他の事情に照らして相当程度と認められるものに要した費用
・葬式の前後に生じた出費で通常葬式に伴うものと認められるもの
・死体の捜索又は死体若しくは遺骨の運搬に要した費用
香典返礼費用は葬式費用に含まれない。(同通達13-5)

●基礎控除額

現行法では、「3,000万円+法定相続人の数×600万円」で計算される。

たとえば、法定相続人が妻と長男、次男の3人であれば、課税価格の合計から4,800万円を控除することができる。

この時点で課税価格の合計が0となれば、相続税の申告は原則不要である。

●暦年課税分の贈与税額控除額

相続開始前3年以内に被相続人から受けた生前贈与は、相続税の課税価格に加算される。

その際に贈与税を課された場合は、相続税との二重課税を防ぐためにその贈与税額を控除する。

<控除額の計算式>

A×B/C

A:その年分の贈与税額
B:その年分の贈与税の課税価格
C:相続税の課税価格に加算された部分の全額
(同通達19-7)

相続税から控除する贈与税額は、相続税の課税対象になった贈与に課される贈与税のみとなる。

暦年課税による贈与税は、1月1日~12月31日に受けた贈与の合計から計算されるため、被相続人以外からの贈与を除くために上記の計算を行う。

なお贈与税は、その財産が特例贈与財産(直系尊属からの贈与)か一般贈与財産かで適用税率が異なる。

よって、これが混じっている年があれば、計算方法が異なるため留意が必要である。

ちなみに相続開始前3年以内の生前贈与は、相続や遺贈によって財産を取得した者のみに加算されるものである。

もともと相続時に遺産を受け取っていない人は、相続開始前3年以内の生前贈与の課税もこの税額控除も適用がない。

●配偶者の税額軽減

相続税の総額に対し、「配偶者の相続分」(1億6,000万円に満たないときは1億6,000万円)か「配偶者の実際の取得価額」のいずれか小さい額に相当する税額を、配偶者の相続税から控除するものである。

これにより配偶者の課税価格が「配偶者の相続分」か「1億6,000万円」を超えなければ配偶者に相続税はかからない。

●未成年者控除額

20歳未満(令和4年4月1日以後は18歳)の相続人に適用される控除である。

<控除額の計算式>
(20歳-相続開始時の年齢)×10万円

●障害者控除額

相続人が85歳未満で、かつ障害者であるときに適用される控除である。

控除額は、一般障害者・特別障害者の2区分に分かれる。

<控除額の計算式(一般障害者)>
(85歳-相続開始時の年齢)×10万円

<控除額の計算式(特別障害者)>
(85歳-相続開始時の年齢)×20万円

●相次相続控除額

相次相続控除額とは、10年以内に相続が2回以上発生している場合、2回目以降の相続税の負担を調整するための控除額である。

短期間に親族の相続が続くと1度目の相続で取得した財産を使い切ることのないまま、次の世代が相続することがある。

短期間に同じ財産に何度も相続税がかかると、遺族の税負担が大きい。

そこで相続によって取得した財産のうち、被相続人が前の相続で10年以内に取得した財産がある場合に、前の相続で被相続人が負担した相続税をベースに、1年につき10%の割合で相次相続控除によって控除する。

計算例を見たほうがわかりやすいだろう。

<控除額の計算式>
A×C/(B-A)※×D/C×(10年-E)/10年

A:前の相続で今回の被相続人が支払った相続税額
B:前の相続で今回の被相続人が取得した相続財産
C:今回の被相続人の相続財産
D:控除を受ける相続人が今回の相続で取得した財産
E:前の相続から今回の相続までの年数(1年未満は切り捨て)
※「C/(B-A)」が1を超えるときは1(同通達20-3)
※わかりやすさ重視のため、A~Eの説明文は簡略化している

【例】
・甲が母の相続において、母の遺産4,000万円(C)のうち2,000万円(D)を相続した
・甲の母方の祖父は2年前(E)に死亡し、そのときの相続で、母(今回の被相続人)は3,000万円(B)を相続し、相続税を100万円(A)支払っている

<甲の相次相続控除額>
100万円×4,000万円/(3,000万円-100万円)×2,000万円/4,000万円×(10年-2年)/10年
→「4,000万円/(3,000万円-100万円)」=「1」
→甲の控除額40万円

●外国税額控除額

外国税額控除額とは、外国の相続税との二重課税を回避するためのものである。

相続や遺贈によって財産を取得した場合、相続人か被相続人のいずれか一方が過去10年以内に日本に住所を有していれば、国内・国外の相続財産に日本の相続税がかかる。

しかし、外国にある財産を取得したとき、その財産に外国の相続税にあたる税が課税されることがある。

その場合は、外国税額控除額によって、その税額を日本の相続税額から控除することができる。

●相続時精算課税分の贈与税額控除額

相続時精算課税を適用した贈与者が被相続人となったときに関係する控除である。

相続時精算課税とは、この課税方法を選択した相手(親や祖父母など)からの贈与について2,500万円まで贈与税が非課税となる代わりに、相続時に相続財産として課税を精算するものだ。

そして贈与額が2,500万円を超えると、超えた部分に対して贈与税を一律20%で納税するルールになっている。

たとえば、相続時精算課税で3,000万円の贈与を被相続人から受けていた場合、贈与を受けた人は、まず相続税の課税価格に3,000万円が計上される。

そして、その相続税から支払った贈与税額(この場合100万円※)が控除される。

仮にその相続人の相続税が80万円であれば、相続税の申告をすることによって20万円が還付される。

(※)(3,000万円-2,500万円)✕20%=100万円

●医療法人持分税額控除額

医療法人への出資者である被相続人の相続に関係する控除である。

相続人が、被相続人から医療法人の持分を相続や遺贈によって取得した場合、原則はその出資額の評価額に相続税が課税される。

しかしその医療法人が相続開始の時において認定医療法人であり、かつ、相続人が相続税の申告期限までに、認定医療法人の持分を放棄したときは、その相続人等の相続税額から、放棄した持分に相当する相続税額を控除できる。

この控除額が、「医療法人持分税額控除額」である。

なお、相続開始の時に認定医療法人でなかったとしても、次のいずれか早い日までに認定を受ければ対象となる。

・相続税の申告期限
・令和5年9月30日

この控除を受けるには、期限内申告が要件となる。

相続税控除額を漏らさず使う

相続税控除額のうち、配偶者の税額軽減や未成年者控除などの適用漏れはあまりないが、債務控除額や相次相続控除額などは適用漏れやミスが起こりやすい。

特に債務控除額は、相続人自身が負担したものと被相続人の財産から支払ったものがごちゃ混ぜにならないよう管理が必要である。

相続発生後は、相続人同士で早めに役割分担し、支払いを取りまとめるなどするとよいだろう。