相続税評価額とは、相続財産を時価で評価した価額のことで、相続税の課税価格の基となる金額である。

相続税評価額の計算方法は、財産の種類ごとに決められている。 法令で決まっているものもあるが、大半は財産評価基本通達(以下「評基通」)であり、その数は200を超える。

そのため、ルールを細部まで把握できず、自身に不利な申告をしてしまっているケースが見受けられる。

相続税対策を始めるには、まず相続税評価額の計算方法を知ることが大切である。 今回は、各財産の相続税評価額の計算方法と、計算方法のルールをきちんと使えば相続税評価額を下げやすい財産について個別に解説する。

中村太郎
中村太郎
中村太郎税理士事務所所長・税理士。1974年生まれ。和歌山大学経済学部卒業。税理士、行政書士、経営支援アドバイザー、経営革新等支援機関。税理士として300社を超える企業の経営支援に携わった経験を持つ。税務のみならず、節税コンサルティングや融資・補助金などの資金調達も得意としている。中小企業の独立・起業相談や、税務・財務・経理・融資・補助金等についての堅実・迅速なサポートに定評がある。

相続税評価額の計算のしくみ

相続税評価額
(画像=PIXTA)

相続や遺贈によって取得した財産の価額は、取得時の時価による。(相続税法第22条)

時価とは、一般的には今いくらで売れるかという金額のことを指すが、相続では課税が公平に行われるよう、相続税評価額の計算方法を法令や通達で示している。

下記は、通達に示された相続税評価額の計算方法のうち、ほんの一例である。

<相続税評価額の例>

・預貯金
 残高+既経過利子-源泉所得税

・家屋
 固定資産税評価額×1.0

・土地
 課税時期の現況によって判断した地目による(宅地、農地、雑種地等)

・構築物
 (再建築価額-建築時から課税時期までの期間の償却費の合計額又は減価の額)×0.7

・借地権
 土地の評価額×借地権割合(通常の地代を支払っているとき)

・株式や公社債
 上場している金融商品取引所の課税時期の最終価格など

・書画、骨とう品(趣味で所有)
売買実例価額、精通者意見価格の参酌

・車
 売買実例価額、精通者意見価格の参酌。これらが明らかでなければ同種・同規格の新品の課税時期における小売価額より製造時から課税時期までの期間の償却費の合計額又は減価の額を控除した金額

・ゴルフ会員権
 課税時期における通常の取引価格の70%など

●相続税評価額と固定資産税評価額の違い

相続税評価額とは「相続税」を計算するための評価額、固定資産税評価額は、「固定資産税」を計算するための土地や家屋、償却資産の評価額である。

相続税評価額にも、家屋や路線価のない地域の宅地の評価に、固定資産税評価額が用いられる。

なお土地を評価するときに用いる路線価には、相続税路線価と固定資産税路線価の両方がある。2つの路線価は、取引価格の指標となる公示価格を「1」としたとき、相続税路線価は「0.8」、固定資産税路線価は「0.7」が目安となる。

知っておきたい相続税評価額の計算方法を活用した節税

相続税評価額を法令や通達のルールよりも高く計算してしまい、そのまま申告したとしても、税務署がわざわざ計算をし直して安い税額に変更してくれることはない。

ここでは、相続税評価額の計算方法をきちんと使えば評価額を下げやすい相続財産について個別に解説する。

●上場株式の相続税評価額

・4つの値から最も低いものを選べる

上場株式は取引価格が日々変動する。

そのため次の1~4つの値のうち、最も低いもので相続税評価額を計算する。

1 課税時期の最終価格
2 課税時期の月の毎日の最終価格の平均額
3 課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均額
4 課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均額

課税時期とは相続によって財産を取得したとき(死亡日)、最終価格とは終値のことである。

ここまでは原則であるため、ご存知の方も多いかも知れない。

・2以上の取引所に上場している銘柄の場合

納税者が選択した金融商品取引所でよい。(評基通169)

・権利落ち日・基準日がある場合

上場株式の相続税評価額(前記1~4)には、それぞれ例外がある。

課税時期の当月、前月や前々月に、「権利落ち日」や「基準日」がある場合である。

「権利落ち日」とは、株式の割当、株式の無償交付、配当を得るための保有要件を満たさなくなった日で、「基準日」とは株式の割当等が行われる日をいう。

権利落ち日を迎えると株価は下がりやすい傾向がある。

この傾向を加味し、もしも課税時期が「基準日」の翌日以後にある場合は、権利落ち後の価格を1~4の相続税評価額に反映させる。

たとえば1の例外として、課税時期当日に取引がない場合、通常はもっとも近い日の最終価格をとるが、課税時期が基準日の翌日以後であれば、もっとも近い日が権利落ちの前の価格であったとしても、課税時期の翌日後の価格を採用できる。(評基通171(3))

なお課税時期が基準日の翌日以後にある場合、2~4の月平均額にも例外がある(配当落ちは、月平均額に影響しない)。

まず、権利落ち日の属する月平均は、権利落ちの日から月末の平均額となる。(評基通172(3))

その前の各月の平均は、増資額と増えた株式数によって改めて計算が必要となる。(評基通172(4))

1つの銘柄を多数保有する場合、数十円下がるだけでも相続税評価額に大きく影響するため、知っているだけで節税効果がある。

なお、ここでは課税時期が基準日の「翌日以後」を解説したが、課税時期が権利落ち後から基準日の間にあるときは、別の計算ルールがある。

●宅地の相続税評価額

・小規模宅地の特例の適用を見落とさない

小規模宅地の特例とは、被相続人の宅地の相続税評価額を80%または50%減額して課税価格に算入できる特例である。

被相続人の住まいや事業で生活を支えられていた遺族が生活を続けやすいよう配慮した有名な特例であるが、「そんなケースにも適用できるの?」というものがある。

たとえば、宅地上の建物が生計を別にする親族が所有する場合であっても使えるケースが限定的ではあるが存在する。

適用には要件があるため、早めに税理士等に相談していただきたい。

・貸家建付地の賃借割合は一時的な空室かどうかで変わる

アパート等の貸家を建築して人に貸しているとき、その敷地の相続税評価額は「貸家建付地」として計算するが、その際の「賃借割合」は、単に課税時期の賃貸契約数から判定しなければならないわけではない。

相続税評価額:自用地評価額×(1-借地権割合×借家権割合×賃借割合)

賃借割合とは課税時期の貸家の入居率であるが、国税庁では、その空室が一時的なものと認められる場合は、賃貸されていると扱って差し支えないとしている。

空室が一時的なものかどうかは、次の事実関係から判定する。

・各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものであること。
・賃借人の退去後速やかに新たな賃借人の募集が行われ、空室の期間中、他の用途に供されていないこと。
・空室の期間が、課税時期の前後の例えば1ヶ月程度であるなど、一時的な期間であること。
・課税時期後の賃貸が一時的なものではないこと。
(参考)国税庁 タックスアンサーNo.4614

・不整形地の評価方法は有利なものを選べる

路線価のある地域の宅地の相続税評価額は、「路線価×補正率×地積」で計算できる。

補正率は、土地の形状に応じて使用する。

たとえば四角形でない不整形地については、その形状に応じて、評価額を下げる補正率を用いる。

不整形地の評価については、評価通達で4つの方法が提案されている。(評基通20)

一見するとそれぞれ異なる宅地にしか適用できないように見えるが、土地の形状によっては2つ以上の方法で評価できることがある。

どれも正しい評価方法なので、この場合はもっとも有利な方法を選択してよい。

たとえば近似整形地といって、不整形地に似た形の整形地を仮想して計算する方法は、他の方法が使える宅地でも利用しやすい。(評基通20(3))

土地の形状を正しく判断し、どの方法が有利になるかシミュレーションをすれば、もっとも有利な相続税評価額で申告することができる。

・その他

敷地の中に私道として使われている部分や、敷地の中でセットバックの適用がある部分は3割評価(70%減)になるなどのルールもある。(評基通24,24-6)

●取引相場のない株式

非上場会社の株式の相続税評価額は、取引相場のない株式として計算する。

評価方法は大きく分けると、原則的な評価方法と、少数株主に使える配当還元方式がある。

原則的な評価方法についていうと、会社の規模に応じ、大会社(会社の純資産・利益・配当を類似業種と比べながら評価)、小会社(会社の純資産価額から評価)、中会社(大会社と小会社の両方を取り入れた評価)に分けて評価する。(評基通178、179)

大会社と小会社は、納税者の選択によって限定的ではあるが類似業種や純資産価額による評価を取り入れることもできる。

以上のことから、原則的な評価方法による相続税評価額は、会社の規模によって比重は異なるが、会社の純資産や利益、配当によって変化する。

この計算のしくみを活用し、たとえば評価対象となる年に損失を計上して利益を抑えることなどが、相続税評価額を下げるための一般的な方法となる。

あくまで理論上の話であるため、できれば相続税評価額のシミュレーションを税理士に依頼し、会社ごとに効果的な方法を判断することが望ましい。

評価方法の判定は、相続人ごとに原則的な評価方式か配当還元方式かを判定し、原則的な評価方式であれば、大・中・小の判定を行うというのが大まかな流れである。

まずは自身の評価方法を知ることが、相続税評価額を下げるためのスタートラインとなる。

相続税評価額の無理な引き下げはNG!税理士に相談を

ここまでのとおり、相続税評価額のほとんどは通達による評価方法を用いて計算する。

しかし、通達による評価方法も万能ではない。

評基通6では「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」としている。

これは通達どおりに評価すると実際の価値と乖離してしまうケースに備えたものである。

つまり、通達どおりならその相続税評価額が100%認められるというわけではない。

どこまでがセーフでどこからがアウトとなるか、線引きは難しいが、相続税評価額に人為的な引き下げが介在している場合、厳しい目を向けられやすい点は共通している。

相続税評価額の引き下げによる相続税対策を行うときは、このルールがあることを頭の片隅に置いて税理士に相談し、納得のいく対策を実行していただきたい。