相続税の申告が必要な場合、税理士に相談するか、自分で申告するかは自由である。
専門家に任せたほうが楽なことは間違いないが、コスト面などを考えて自分でしたいという方もいるだろう。
今回は、自分で相続税を申告したい方に向けて、最低限知っておくべきポイントをお伝えする。
なお、正しい相続税申告や最適な節税ができることを保証するものではないため、あくまで参考にとどめていただきたい。
●相続税の計算のしくみ
相続税申告が自分に必要かどうかを判断するには、相続税の計算のしくみを知る必要がある。
相続税のおおまかな計算の流れは、下記のとおりだ。
<計算の流れ>
・相続財産から計算した相続税の課税価格の合計額から、相続税の基礎控除額を控除する
・その残額を法定相続分に分け、相続税の総額を計算する
・相続税の総額を、各相続人らが実際に相続した財産の価格に応じて按分する
・各相続人らに適用できる税額控除を差し引く
●相続税申告が必要になるケース
相続税申告が必要となるケースは、基本的に次の3つで考えるとよいだろう。
・ケース1:相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を上回るとき
これを正しく判定するには、まず相続財産の評価方法を知らなければならない。
たとえば、現金100万円であれば課税価格も100万円でよいが、1,000万円で購入した土地が1,000万円とはならない。これはその土地を現在の時価に評価し直さなければならないからだ。土地の評価方法は、相続の時の実際の地目で変わる。
続いて、基礎控除額の計算方法も重要である。
基礎控除額の計算式は、「3,000万円+法定相続人の数×600万円」である。
法定相続人とは、民法で定められている相続人と基本的には同じである。
ただし、相続人に相続放棄があった場合、被相続人に2人以上の養子がいる場合は、税法独自のカウント方法が適用されるため注意が必要だ。
・ケース2:相続税の申告を要件とする特例を使用するとき
代表的な特例は、小規模宅地の特例と配偶者の税額軽減である。
いずれも多くの相続で使える特例で、節税効果も非常に高いが、特例を適用するための要件の1つに相続税の申告を行うことがある。
したがって、この特例を適用して税額が0円になるケースでも必ず相続税申告をしなければならない。
・ケース3:税額控除を使っても納税額が「0」にならないとき
相続税の税額控除(配偶者の税額軽減を除く)を適用しても納税額があれば、相続税申告が必要となる。(相続税法第27条第1項)
税額控除には、以下の控除がある。
・贈与税額控除
・未成年者控除
・障害者控除
・相次相続控除
・外国税額控除
●相続税申告の方法
相続税申告は、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に対して行う。
2人以上の相続人や受遺者がいる場合は、全員で1通の申告書に連署して申告することもできる。
別々に申告することもできるが、その場合も結局は全員で同じ内容の申告書を出すこととなる。
相続税は、すべての財産から相続税の総額を計算しなければ正しい納税額を割り出せない。
そのため別々に申告して、自分の申告書にだけこっそり生前贈与を受けた財産を加算して提出すると税務調査の対象となって、結局他の相続人に発覚する。
おそらく納税額も全員変わるだろう。
そのため相続税申告は、他の相続人と共同して申告することが一般的である。
●相続税申告の期限
相続税申告の期限は、自己のために相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内である。 基本的には亡くなった日の翌日から10ヶ月となるが、相続の起算日が亡くなった日とならないケースもある。
また、被相続人に確定申告が必要となる場合、死亡した年の1月1日から亡くなる日までの所得について、4か月以内に準確定申告を行うことも必要となる。
●納税方法と期限
相続税の納税は、相続税申告の期限までに金銭による一括納付が原則である。
金銭による一括納付の方法には、下記の方法がある。
・税務署の窓口納付
相続税を申告する税務署の窓口で納税する方法
・金融機関の窓口納付
銀行等の窓口で納税する方法
・電子納税
国税庁のe-Taxというシステムを使ってインターネットで納税する方法
事前の届け出が必要となるが、インターネットバンキングを必要としないダイレクト納付もある
・クレジットカード納付
クレジットカードで納税する方法
納税額に応じた手数料がかかる
<金銭による一括納付が困難な場合>
一定の要件を満たすことで、延納・物納を利用することができる。
●相続税申告に間違いがあったときのペナルティ
相続税申告の内容に誤りがあり、納付した税額が足りなかった場合は、修正申告を行う。
このとき、追加の納税額に「加算税」や「延滞税」という税金が別途生じる場合がある。
「加算税」は、納付税額が少なかったこと等に対するペナルティである。
相続税申告が期限内に行われていれば過少申告加算税、そうでなければ、より高い無申告加算税の対象となる。
加算税は、なるべく早く自分から申告したほうが税額が低くなるよう設定されている。
延滞税とは、法定の納期限から遅れた日数分生じる、利息のような性質の税金である。
●税理士に依頼していない申告書はすぐにわかる
税理士が依頼を受けて作成した相続税申告書には、税理士の署名がある。
それだけで、どこまで税理士が関与しているかまではわからないが、少なくとも税額の計算に税理士が関わった申告かどうかはすぐにわかる。
相続税申告を自分でするときの手順
相続税申告を自分でするときに必要となるであろう最低限の手順をまとめてみた。
●遺産整理
まずは被相続人の遺産に何があるかを整理することがスタートラインである。
できれば生前のうちに家族で話し合い、あらかじめ相続財産の目録を作成しておくとよい。なお、借金があればそれも相続することになるので合わせて見落としのないようチェックをする。
●相続財産のリスト化
発見した財産は、発見場所とともに記録しておく。
必要に応じて、発見状況をデジタルカメラなどで撮影しておくとよい。
●遺言書を発見したら
公正証書遺言でなければ、封印は開けずに家庭裁判所の検認を受ける。
なお、令和2年7月10日から法務局における自筆証書遺言書の預かり制度が開始されている。法務局に対しては、まず遺言書が保管されているかどうかを確認する手続きをとる必要がある。
●相続放棄の判断
相続できる財産よりも債務のほうが大きい場合、相続放棄の検討が必要である。
相続放棄をする場合は、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要がある。財産を調査しても3ヶ月で判断できないというときは、期限を伸長する手続きもある。
●遺産分割
相続人や包括受遺者で遺産分割を行う。
遺産分割の結果は、遺産分割協議書を作成して書面化しておく。
●相続税申告書の作成
相続税申告書は、国税庁のホームページに様式が掲載されている。
●相続税申告書を税務署に提出
相続税申告書を、被相続人の死亡時の住所地を管轄する税務署に提出する。
郵送、窓口に持参、電子申告での提出ができる。
相続税申告を自分で申告する方法
国税庁のホームページに毎年、「相続税申告のしかた」という申告用のマニュアルと様式がアップされている。
必ずその年の様式とマニュアルを使う。
様式は第1表から第15表まで種類があり、申告に使用する特例や財産の種類、税額控除の種類などで使い分ける。必ず使う様式もある。
<必ず使う相続税申告書の様式>
第11表 相続税がかかる財産の明細書
第15表 相続財産の種類別価額表
第1表 相続税の申告書
第2表 相続税の総額の計算書
特例に関する明細書や計算書は、申告書に添付することがその特例の適用要件になっているので注意が必要である。
なお、相続税申告書はe-Taxソフトをダウンロードして作成することもできる。
税理士に相続税申告を依頼したほうがよいケース
●相続財産が高額である
たとえば財産の総額が1億円を超えるようなケースでは、少しの誤りでも納税額に多大な影響がでる。申告する財産が高額であるときは、税理士に相続税申告を依頼したほうがよい。
●相続財産に土地がある
土地は形状や用途、地目等で評価方法が変わる。
間違いが生じやすい項目であることは税務署もわかっているので、誤りを発見されやすい財産といえる。そのため、相続財産に土地がある場合も税理士に相続税申告を依頼したほうがよい。
●なるべく相続税を少なくしたい
税理士に依頼する最大のメリットは、相続税申告が楽になることよりも、相続財産の価格をムダに多く申告せずに済む点だろう。
相続税の課税価格は、相続財産の評価額を基に計算するが、評価方法は非常に複雑である。
税理士に依頼すれば、納税者にもっとも有利な方法で評価してもらえるだろう。
また相続税には控除に関するルールも多い。
それらを漏れなく正しく使うことで、課税対象や相続税額を低くすることもできる。
税務調査では85.7%で誤りが発見される
ここまでのとおり、相続税申告は自分で行うことも可能である。
ただし、最後の「税理士に相続税申告を依頼したほうがよいケース」にあてはまるものがあれば、なるべく税理士に相続税申告を依頼したほうがよい。
数年後に税務調査がやってくれば、ほとんどのケースで何らかの誤りが見つかり、追加の税金や加算税等を納付することになる。
参考までに、平成30事務年度における相続税の税務調査(実地調査)件数では、約85.7%の調査で申告漏れなど何らかの非違が発見されている。
税務署は例年、個人からの確定申告書や、各企業からの支払調書などを受け取っており、個人の財産について、ある程度の情報をもっている。
税務署がこれらを始めとする情報網と照らし合わせれば、相続税申告書に記載された財産が妥当かどうかは、ある程度わかってしまうのだ。
「自分で適当にやれば終わる」そう思って適当に計算して申告できたとしても、税務署からの問い合わせや後の実地調査で余計に手間や税金がかかった…となってしまうのが相続税申告である。