本記事は、牧口晴一氏の著書『日本一シンプルな相続対策』(ワニブックス)の中から一部を抜粋・編集しています。

不動産相続の概念と契約書
(画像=Wasan/stock.adobe.com)

「住宅資金非課税贈与」で争いの種?

不平等な贈与になりがちなので気をつける

「住宅資金非課税贈与」は、子どもや孫が家を建てるときに使われていますが、節税の恩典だけに目を奪われない注意が必要です。まず、それをお話しします。

相続税法のうえでは、贈与額は相続財産に加算しないが、

民法(遺産分割)のうえでは、「特別受益」を考慮しなければならない。

非課税贈与は、極端な話、贈与を受けた人が黙っていればわかりません。しかし、後からわかってしまうことがあります。それは、税理士が相続税申告のために、あるいは税務署が調査に応えるために、過去の預金の動きを辿ると少なからずあぶり出されるのです。

その結果、相続財産でないことを立証するために、非課税贈与をしたことを明らかにしないといけなくなります。

そのプロセスで、他の相続人に「なに!お前そんなにもらっていたのか」とわかると、それが遺留分の計算に影響を及ぼし、争族に発展しかねません。

いわば玉突き的に、事実が後から判明すると、信頼感を失うことにもなるのです。

贈与するときに、他の家族にもいくら贈与したのかを明らかにすれば公明正大でよさそうですが、実際にはなかなか言いづらいものです。

その点、「暦年贈与」は、公明正大にやりやすいものです。お盆に皆が集まった折に、「今年も、孫たち一人ひとりに〇〇〇万円の贈与をするぞ!」と言えばOKです。これと並行して、フランクな家族関係があるかどうかも影響してきます

子どもが一人だけなら問題ありません。また、複数いても、他家に嫁いで悠々自適で、住宅資金の贈与など必要がないのであれば、息子の方に贈与してもよいかもしれません。

しかし、嫁いだ娘だって、お金はいくらあっても困りませんから、非課税かどうかなんて関係なく「いいなぁ~、お兄ちゃんだけ」となるかもしれません。

「住宅資金非課税贈与」で他の節税が使えなくなることも

「住宅資金非課税贈与」を使って、子どもが持ち家となった場合は、実家を相続するときに、実家の土地は8割引きの評価で相続できるという「小規模宅地の特例」が使えなくなります

たとえば、実家土地の評価が3,000万円ならその8割は2,400万円。相続税の実効税率が20%なら480万円の節税が使えなくなる。「住宅資金非課税贈与」で贈与税0で1,000万円の相続財産を減らした効果は、実効税率20%なら、200万円にしかならないのでよく考えないといけません。

もちろん、相続前に実家を売ってしまい、8割引きを受ける必要もないなど様々な条件で変わってきます。実家の売却になるのかなど、未来はなかなか見通せませんが、可能性は考えておかなければなりません。

「住宅資金非課税贈与」はデメリットを自覚のうえで検討する

父母や祖父母などの直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた子や孫が、翌年3月15日までにその資金で自分の居住用の家屋新築取得増改築等をし、同日までに自分が住むか、住むことが確実なときは、住宅取得等資金のうち一般住宅なら500万円、省エネ等優良住宅については1,000万円について贈与税が非課税となります。

住宅や改築などには細かい条件があります。次にその一部を示します。

床面積:40㎡~240㎡以下・中古は築20年以内(耐火は25年以内)・増改築は省エネ・バリアフリー改修工事であることなど。

生活費はそもそも非課税です

「教育資金非課税贈与」や「結婚子育て資金非課税贈与」は使わなくても

「住宅資金非課税贈与」が特別受益になって、後に争いの種になる可能性については、「教育資金非課税贈与」「結婚子育資金非課税贈与」にも共通します。しかも、まもなく終了の予定ですし、年々使い難くなり、使わなかった部分は、結局のところ相続財産に加算しないとなりません。

何より、銀行に信託口座を作らなければならず、その都度非課税の証明が必要で、面倒です。

また、贈与した瞬間だけは感謝されるものの、子孫は銀行に通うだけなのであまり感謝されません。

そんなことをするよりも、生活費として教育資金や結婚子育てで必要の都度、実費を親や祖父母が出してやれば、贈与税は非課税ですし、相続財産に加算する心配もありません。

その都度、あげるので子どもの顔も見られるし、感謝もされやすくなります。元々、贈与はそれを期待するものではありませんが、やはりそこはね。

生活費とは何か? 食費・衣服費・水道光熱費・教育費・通信費など、生計を共にしていればかかる、文字通り生活費です。

生計を共にしていなくても、たとえば祖父母とは別居していて、孫に大学の授業料を払ってあげるとか、孫娘が結婚するので費用を負担してあげるとか……通常行われる金額であれば、そもそも非課税です。ただし「必要な都度」支払うものに限ります。

それでは「通常」とはどのくらいか? これは家庭によって異なります。それだけに、税務調査でも時折問題になるグレーゾーンです。要は、その家にとって、ずっとその生活を続けて家庭が回っていれば、それが通常の生活費ですから、その範囲で子どもを外食させようが、大学に入れようが、すべて非課税です。

日本一シンプルな相続対策
牧口晴一(まきぐち・せいいち)
昭和28年生まれ。税理士・行政書士・法務大臣認証事業承継ADR調停補佐人。慶應義塾大学法学部卒、名古屋大学大学院 法学研究科(会社法)修了。税理士試験5科目合格。昭和61年開業。2015年『税務弘報』9月号で「トップランナースペシャリスト9」に選出。税理士等の専門家向けに『牧口大学』、『丸の内相続大学校』などの講演をするほか、一般向けには「相続博士・事業承継博士」としてパフォーマンス豊かに、分かり易く、時には落語調に「楽しく」聞かせる第一人者として活動する。また地域ボランティア活動の一環としてNHK文化センターで相続・会計・事業承継の講座を10年余り担当している。主な著書に『非公開株式譲渡の法務・税務(第7版)』『事業承継に活かす納税猶予・免除の実務(第3版)』、『組織再編・資本等取引をめぐる税務の基礎(第4版)』、<以上、中央経済社>、『図解&イラスト 中小企業の事業承継(第14版)』<清文社>等多数。

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