これは「ボッタクリ」ではないですか?
豪ドルの一時払い変額個人年金保険は、お金を「定額部分」と「変額部分」の2つに分けたものです。しかし、繰り返しますが銀行が受け取る手数料は開示されていません。この点について、金融庁の森信親長官が『文藝春秋』5月号で言及して話題になりました。
この商品の特徴は「外貨での元本保証」です。つまり、「定額部分」は安定運用でオーストラリア国債を使って1%で運用します。1豪ドル=80円とした場合、80万円を払い込んで1万豪ドルを運用してもらいます。外貨での元本保証なので10年後に1万豪ドルは必ず戻ることが約束されます。それ以外に変額部分で運用した利益を上乗せする……というものです。
問題は銀行が得る手数料です。オーストラリア国債の利回りは年2.5%。それを保険商品では年1.0%で運用します。つまり、1.5%のサヤ抜きです。10年間運用すると15%となります。これを「ボッタクリ」と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょう?
15%の分け前を、保険会社と銀行で折半をすると、それぞれ7%ほどの利益になりますね。つまり、80万円の契約をすると、銀行は5万6000円の手数料を得る計算です。
豪ドルの一時払い変額個人年金保険を買うよりも、「オーストラリア国債」を直接買った方が、まったくお得ですよね。森長官がこの事実を契約者に公開しないのを問題視されていましたが、私も同感です。
先週、大手銀行5社が「年明けに保険手数料の開示を自主的に行う」と報じられましたが、今後すべての銀行において手数料が開示され、透明化が徹底されることが求められます。
外貨建て変額年金保険は「コストの塊」
「外貨建て変額年金保険」は、他にも落とし穴がいっぱいあります。この商品は、文字通り「コストの塊」なのです。
私もパンフレットを見ただけでは、良く分からなかったので実際に銀行の窓口に話しを聞きに行きました。
商品によって違いはありますが、まず円を外貨に替えるために手数料がかかります。次に運用期間中も運用管理費、さらに投資信託の信託報酬がかかる場合と含まれている場合があります。いずれにして、ETFのようなインデックスファンドよりは、遥かに高くつきます。
また、受け取るときも外貨から円に替えるのに手数料がかかります。もちろん途中解約をすると、元本を大きく割り込む可能性もあります。これでは保険の機能はありませんが、信託報酬の安い投資信託の方がよほど有利ではないでしょうか。
あなたの資産状況は丸見えになっている?
銀行から良く電話がかかってきませんか。たとえば、定期預金が満期になったときとか、タイミング良く電話がかかってきませんか? 当然です。銀行からは、私たちの預金の情報が丸見えです。いくら残高があるのか、定期預金の満期がいつなのか、すべての情報を把握しています。
マイナス金利の時代で、銀行の稼ぎが減っている今、銀行は手数料の高い商品を売って収益を増やそうとしているのです。ヤバイです!銀行は、あなたのお金を狙っているのです。
翌日、美容院の店長からお電話を頂きました。お母様の保険は、無事にクーリングオフができたそうです。一件落着、めでたしめでたし。しかし、次に狙われているのは、あなたかも知れません。くれぐれもご注意を。
長尾義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)『怖い保険と年金の話』(青春出版社)『商品名で明かす今いちばん得する保険選び』『お金に困らなくなる黄金の法則』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)、『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社発行)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。