厚生労働省が出している「平成27年簡易生命表の概況」によると、現在、日本人が60歳までに亡くなる確率は10%以下となっており、死亡率が急激に上昇するのは、おおむね70歳を超えてからとなっている。寿命が延びている背景には、悪性新生物(ガン)や心疾患などの治療法が進歩したことなどがある。
人々が感じている不安とは「健康」と「お金」
本格化する少子高齢化社会に備えて、国の方でも現在、さまざまな制度改正を進めている。しかし、個人レベルで見た場合、平均寿命が毎年0.3歳ずつ伸びているデータから推測すると、今40歳未満の方の平均寿命は90歳を超える可能性は大いにある。
他方、年金支給の開始が遅れることになると、サラリーマンのリタイアはそれに伴い後ろ倒しになるだろう。ここで一番のネックは、いくら政府が雇用延長を要望しても、企業は定年を60歳のままに据え置く場合が多いということ。再雇用では給与は極端に減り、役職が解かれるということも当たり前だ。
将来への備えとして、多くの人が行っている対策のひとつに「生命保険への加入」が挙げられる。生命保険文化センターが発表した「平成27年度生命保険に関する全国実態調査(速報版)」によると、個人年金保険を含む生命保険の世帯加入率は89.2%と、依然9割近い値を示している。同調査によれば、「万一の際に期待できる経済的準備手段は?」との問いに対して52.9%の人が「生命保険」と回答している(預貯金などは43.2%)。
保険に加入した目的として、直近に加入した生命保険(民保)について尋ねると、「医療費や入院費のため」(58.5%)と「万一の時の家族の生活保障のため」(53.1%)の2つが突出した回答となった。ここから、人々が将来に対して抱いている具体的な不安が「健康」と「お金」であることがわかる。
多くの人が「自分が加入している保険」の内容を理解していない
ところがその一方で、加入している保険の保障内容で十分かと質問したところ、「充足感がない」と答えた人が32.3%に及んでおり、「わからない」と答えた人も29.5%と3割近くにも上っている。さらに、保険に関する知識について、「知識がない」と答えた人の割合が68.6%もいたことから、多くの人が「よくわからずに加入している」様子が見て取れる。
この調査によって、結構な数の加入者が、保険を「将来の備えとして期待」していながら「内容をよく理解しておらず」、「効果を実感できていないものにお金を払い続けている」実態が浮かび上がってくるのである。
なぜ、6割以上もの人が、よくわからない保険にお金を払い続けているのだろうか。理由はいくつかあるだろうが、その中のひとつに「保険が『安心』を売る商品だから」ということが考えられる。つまり、人は保険が持っている保障の面よりも、「保険に入っているから大丈夫」という「安心感を得たい」がために、保険に加入しているのではないだろうか。
最低限、保険は「適用範囲」と「保障期間」を確認しておく
加入者が、保険の内容をわからないままでいると、必要な時に保険金を請求しなかったり、いざ保険を使おうとした時になって、希望通りの保障を得られなかったりする可能性が出てくる。
一例を挙げると、トラブルになりやすいのがガン保険などのような、特定の病名に対してお金が下りる保険である。万一、合併症を併発したりして、病名がガンでなかったりすれば、当然保険金が下りないことになる。他には入院保険なども、最近は日帰り手術が増えてきているから、思ったほど使う機会がないかもしれない。せっかく入っている保険を有効活用するためには、最低限、自分が加入している保険でカバーできる範囲がどこまでなのかは確認しておくべきだろう。
それから、入っている保険の保障期間がいつまでなのかも、合わせてチェックしておきたい。ありがちなのが、たとえば介護保険などのように、老後の活用を期待されている保険でありながら、保障期間が「65歳まで」などとなっているものがあることだ。同じく、終身保険などにも、定期特約期間が終わった途端に保障額がグッと下がってしまうものがあるので注意が必要である。
このように、保険は使用するに際してさまざまな制約がある。保険とは、あくまでも「保障内容に納得した前提で契約している」のだということを、忘れないようにしたい。
まずは「自分と向き合う」ことから始める
保険業界の用語に、「アシュアランス(生存リスク)」と「インシュアランス(死亡リスク)」という2種類の言葉がある。あえて端的に表現するとしたら、アシュアランスとは、生存リスクに対する保険のことを指し、インシュアランスとは死亡リスクに対する保険のことを指す。海外ではここの区別が明確になされた上で保険と向き合うのが常識となっている国が多い。
かつて、日本が右肩上がりに成長していた時は、手厚い年金や退職金、値上がりする不動産や高い預金利息などによって、人は基本的に老後や資産運用のことで頭を悩ませる必要がさほどなかった。そういう時代は、万が一のインシュアランスを心配していればことは足りたのだろうが、これからは、日本もアシュアランスの重要性が問われる時代になっていく。
アシュアランスの根底にあるものとは、「自分の身は自分で守る」という思想である。それは結局のところ、「自分以上に、自分に対して真剣になる者はいない」という現実と向き合うことなのである。
俣野成敏(またの なるとし)
1993年、シチズン時計株式会社入社。31歳でメーカー直販在庫処分店を社内起業。年商14億円企業に育てる。33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢され、40歳で本社召還、史上最年少の上級顧問に就任。『プロフェッショナルサラリーマン』(プレジデント社)や『一流の人はなぜそこまで◯◯にこだわるのか?』(クロスメディア・パブリッシング)のシリーズが共に10万部超のベストセラーに。2012 年に独立。複数の事業経営や投資活動の傍ら、「お金・時間・場所」に自由なサラリーマンの育成にも力を注ぐ。
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