家計が苦しいと感じている人は必要以上の保険に加入していることが多い。特に注意すべきは“生命保険”である。家族のためなら仕方がないといって、過剰な保険料で家計を圧迫していることがあるからだ。そうならないように、自分に必要な保険を知り、保険料を適切にしていこう。

どうして保険に加入するのかを明確にする

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(画像=PIXTA)

保険へ加入する際に意識しておきたいことが、
 ・どうして保険に加入するのか
 ・保険に加入することで払拭できる不安は何か
という2つのことである。

保険に加入する目的を知る

当たり前のようで最も大切なことが、保険に加入する目的を考えることである。目的がぼやけていると過剰な保険金を設定してしまったり、不要な特約に加入したりしてしまうことがあるからだ。

生命保険へ加入することが家族のためだというなら、家族が生きていくために必要な生活費がいくらぐらいかを知っておけば、必要最低限の保険金を設定することができる。子どもがいる家庭であれば、子どもが成人するまでに必要な資金を余分に設定しておくことも一案だ。

保険に加入することで払拭できる不安は何かを考える

保険に加入するときは、いま思い浮かぶ不安要素を意識しておくとよい。現在の不安要素を知っておくことで、自分にもしものことがあったときの対策や必要な金額が浮かび上がる。保険へ加入することが安心を買うことにつながるのだ。

生命保険の種類

自分のライフスタイルに合わせた保険を選ぶためには、どのような生命保険があるかを知っておく必要がある。生命保険にはさまざまな種類があるが、保障期間に終わりのある「定期保険」と、終わりのない「終身保険」に大別することができる。

定期保険は掛け捨ての保険であり、払った保険料が戻ってこない代わりに、安い保険料で加入することができる。終身保険は支払った保険料が解約返戻金や満期保険料として払い戻される特徴があるので、貯蓄性があり資産としての意味合いも持つ。一方で保険料が高額になることが多いので、貯蓄の機能が必要か判断したうえで加入する必要があるだろう。

定期保険

いわゆる“終わりのある保険”で、自分で一定の年齢に達するまでの保障を設定して契約するものを「定期保険」という。10年、20年と期間を設定する方法や、60歳や65歳までと、年齢で設定する方法がある。

保障する期間を限定して契約するので、自分が働けるうちにもしものことがあった場合に備えて、家族が生活できるだけの保険金を設定することが多い。なお保険金については自身が独身で1人暮らしの場合、配偶者と同居している場合、または子どもや両親と同居している場合など、ケースに応じて金額を設定する必要がある。

もし保険が不要になった場合は、自身で申告して解約を行わなければ自動更新となり、更新後は以前の保険料よりも高くなる場合がほとんどなので、契約期間を把握したうえで契約を更新するか他の保険に乗り換えるかを検討する必要がある。

終身保険

こちらは“終わりのない保険”であり、具体的な年齢を設定することはない。契約者が亡くなるまで契約が継続するという特徴がある。したがって、死亡保険金が確実に支払われることから、相続税の節税に用いられることが多い。

最近では保険料を運用する“変額終身保険”も主流になりつつある。最低保障の死亡保険金が決まっており、運用がうまくいけば解約返戻金や死亡保険金を設定よりも多く受け取ることができる。ただし保険商品に運用機能がついている特性上、保障のない解約返戻金については元本割れの可能性もあるので併せて注意したい。

解約返戻金を受け取れるのは終身保険のメリットだが、短期で解約すると支払った保険料に対して返ってくる金額が少なくなる。解約返戻金を目的とするなら、長期で保有することを前提とした契約がおすすめだ。

特約付終身

終身保険に上乗せとして定期保険を契約するような保険のことをいう。終身保険を配偶者のためとして契約しておき、子どもが成人するまでの期間は定期保険を併せて契約することで、不足しがちな養育費を補うような契約が一般的である。

収入保障保険

あらかじめ設定した保険期間中に契約者が死亡した場合、その時点から満期まで、受取人に死亡保険金が契約者の給与のように年金形式で支払われる定期保険の一種である。

契約者生存のまま満期に近づけば近づくほど、受け取ることができる死亡保険金が減少していくので、常に同じ金額を受け取ることができる終身保険と比較すると、保険料を安く抑えることができる特徴がある。

この保険は掛け捨てなので、契約してすぐに死亡してしまった場合は、満額に近い金額を受け取ることができるが、満期まで生存していた場合、保険金を受け取ることができないというデメリットもある。

しかし加入しておけば、子どもの成長に合わせて、お金が必要な時期にもしものことがあった場合、多くの保険金を受け取ることができる。時間の経過とともに受け取れる保険金が減少していくデメリットについては、子どもが大きくになるにつれて必要なお金が減少していくので、さほど気にならないだろう。

公的年金の支給額を知る

毎月支払う保険料は、自分が必要だと感じている死亡保険金で決まる。だが多くの人は自分にもしものことがあったときに受け取ることができる公的年金の存在を知らない。この機会に、自分が死亡したときに家族が受け取ることができる「遺族年金」について知っておきたい。

遺族年金

原則として年金保険料を納めている期間と免除期間を合計した期間が、加入期間の2/3以上であれば遺族年金を受給することができる。もしその期間に満たない場合でも、死亡日の前々月までの1年間に保険料の滞納がなければ、特例として遺族年金を受給することができる。

・遺族基礎年金
遺族基礎年金の恩恵を受けることができるのは、子のある配偶者か子どものどちらかだ。残された配偶者が再婚するか、子どもが18歳になるまでの期間について年額78万100円が支給される。なお第2子までについては、1人につき22万4500円が追加で支給される。子どもが受給する場合も、第1子に対して78万100円が支給される。

子どもがいない家庭の場合は、
 ‐寡婦年金
 ‐死亡一時金
のうち、どちらかを選択して受給することとなる。

寡婦年金については、10年以上婚姻(内縁可)していて、妻が60~65歳の間、夫が受給予定だった老齢基礎年金の金額のうち3/4を受給するというもの。

死亡一時金は、保険料納付月数に応じて12~32万円を一時金として受給することができる。

子どもがいない家庭の場合なら12万(最低納付月数の死亡一時金)~約292万円(寡婦年金を5年間受け取った場合)を受け取ることができる。子どもが1人いる家庭については、約100万(17歳の子どもと仮定)~約1908万円(0歳の子どもと仮定、総額)を受け取ることができる。

・遺族厚生年金
厚生年金保険の被保険者であった人が亡くなったとき、その配偶者か18歳までの子が受け取ることができるのが遺族厚生年金だ。配偶者は、子のいない30歳未満の妻は5年間の有期だが、子がいたり30歳以上の妻については再婚するまで基本的には生涯受け取ることができる。なお夫は55歳以上なら受け取ることができる(支給は60歳になってから)。

金額については人それぞれによって異なるが、目安として「老齢厚生年金額×3/4×調整率(300/加入月数)」の金額を受け取ることができる。老齢厚生年金の金額については平均額が出ているので、今回はその金額の3/4(300月加入していたとする)の金額を、遺族厚生年金の平均額と仮定してみよう。

厚生労働省の調査によると、65歳以上の社会保障給付は月に約18万円だ。この金額を老齢厚生年金の平均額とすると、遺族厚生年金の平均額はその3/4にあたる月13万5000円、年額162万円となる。

よって、
‐子のいない30歳未満の妻は5年間の有期なので、最大810万円が支給される
‐子がいる、もしくは30歳以上の妻は基本的には生涯支給されるが、30~64歳の間で受け取るとすると5508万円が支給される

支給要件はあるが、もしものときに頼りにできる年金制度といえよう。

遺族の支出を知る

保険を決めるときの手順は「必要な保障額=遺族が必要とする支出-遺族が得る公的年金の収入」をもとに考えるとよい。具体的に保険金を設定する際、遺族の支出面から必要な保障額を確認してみよう。

残された遺族に必要な生活費

総務省の家計調査によるデータをもとに必要な支出について考えてみる。
【前提条件】夫:35歳、妻:30歳、長女:2歳

まず遺族の生活費をみてみよう。2人以上世帯の場合は28万7000円が必要だ。ただしこの金額は家族3人で生活していた場合の金額なので、今回はこの金額を0.7倍した19万5000円を残された妻と長女の月々の生活費とする。2歳の長女が22歳まで同居するとした場合、19万5000円×20年=4680万円が必要だ。その後長女が独立し、55歳になった妻が一人で生活していく場合の費用は28万7000円の0.5倍として考えると、その後87歳まで生きると仮定した場合は、さらに5510万円が必要となる。

よって、残された遺族が生きていくために必要な生活費は1億360万円だ。

残された子どもの教育資金

生活費以外にも子どもの教育費を残しておきたいと考えている人は、下記の表を参考にしていただきたい。

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すべて公立の学校へ進学した場合の費用は約784万円、すべて私立の学校へ進学した場合の費用は約2158万円(私立文系大学の場合)必要である。なお高校まで公立で大学からは私立という場合は、約925万円だ。

葬儀費用、墓地購入費用

葬儀については規模などにより費用が大きく異なるので、一概にいくらということはいえないが、日本消費者協会の「葬儀についてのアンケート調査」に掲載されている金額195万7000円が参考になるだろう。墓地についても葬儀と同じ理由で相場が安定しない傾向にあるが、永代使用料や墓石購入費用を合計して150~200万円ほどが参考となる相場である。葬儀と墓地購入費用を合計して400万円ほど準備しておくと安心できる。

遺族の収入を知る

先ほどと同じく、夫:35歳、妻:30歳、長女:2歳を例として遺族の収入を考えてみよう。

遺族基礎年金から支給されるお金

妻については長女が18歳になるまでは基礎年金部分の78万100円に加え、子の加算額である22万4500円を加えた年額100万4600円が約16年間にわたって支給される。よって遺族基礎年金より支給される金額は約1607万円だ。

子が18歳を超えると老齢基礎年金は支給が止まる代わりに、亡くなった夫が厚生年金に加入していた場合、次項の遺族厚生年金に「中高齢寡婦加算」が適用される。

遺族厚生年金より支給されるお金

こちらについても子がいるので年額162万円が支給される。子どもが独立するまでが合計2430万円だ。さらに、40歳時点で子のいる妻については、遺族基礎年金支給終了後から「中高齢寡婦加算」が適用され、長女が18歳を超えた50歳より64歳まで、遺族厚生年金に遺族基礎年金の3/4を加えた金額が支給される。その場合は162万円に58万5000円を加えた約220万円が14年間支給されるので、合計3080万円が支給されることになる。

妻が老齢年金として受け取るお金

老齢年金とは老齢基礎年金と老齢厚生年金を合わせたもの。基礎年金額は40年間きっちりと年金保険料を納めた場合、2019年4月現在では年額78万100円が受取額だ。もし納めていない期間がある場合は、「納付月数/480月」を按分した金額を受給することになる。

老齢厚生年金については、会社員時代の標準報酬月額によって異なる。一概にいくらということはいえないので、妻が受け取る老齢厚生年金については23歳から60歳まで加入を続けたと仮定し、平均報酬月額は25万円として計算を行った。

その結果、65歳以降に妻が受給できる老齢年金は、基礎年金と厚生年金を合わせて年に約169万円だ(老齢基礎年金は年間74万1095円、老齢厚生年金は年間94万8000円)。65歳から平均余命である87歳まで生きると仮定した場合は、合計約3718万円を受給することになる。

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このように、遺族年金などを加味して必要な保障額を算出し、それをもとに保険金を設定することで、“保険のかけすぎ”を防ぐことができる。

保険を決めるための手順を解説

必要な保障額がわかったら、次に目的を定めて保険を選ぼう。低価格で加入できるが掛け捨てになる“定期保険”を選ぶか、貯蓄の機能を持つ代わりにある程度の保険料が必要になる“終身保険”のうちどちらへ加入するかということだ。

自分にもしものことがあっても、家族が安心して生活を送れるようにしたい人や、葬式の費用ぐらいは自分で払いたい人がいるように、保険に求める価値は状況に合わせて人それぞれだ。加入者が大切にしている価値観に合致する保険に加入することが最も大切である。以下で保険を決める際に押さえておきたいポイントや手順を紹介しよう。

直後に必要な金額や請求の手順を把握する

・すぐに必要な金額を知る
早い段階で必要なお金は葬儀費用と墓地購入費用だ。試算では約350~400万円。もし十分な貯蓄がなければ、これを支払えるように保険をかけておきたい。

・保険金の支払いはいつ行われるか
保険金の支払事由が発生してから保険会社へ口頭または書面にて保険金を請求した場合、受け取りに必要な書類が送付される。その書類に必要事項を記入し、資料などを添付したものを保険会社へ返送する必要がある。

生命保険会社は約款により保険金の支払期限を定めており、必要書類が生命保険会社に到着して書類に不備がなければ、到着日から起算して原則5営業日以内に保険金の支払いが行われる。ただし約款の規定は会社ごとに異なるため正確な支払日については個別の確認が必要だが、書類を保険会社に送付した日から1週間程度で保険金が支払われると考えてよいだろう。

保険に求めるものを明らかにする

・保険料を安く抑えたいなら定期保険
あなたが保険に求めるものは何だろうか。保険料を安く抑えたいなら“価格”であり、もし何もなくても解約返戻金として保険料の払い戻しを求めるなら“資産性”だろう。

必要に応じて自由に保険を選びたい、保険料を安く抑えたいという人は定期保険を選ぶとよい。掛け捨てなので解約返戻金を受け取ることはできないが、ライフスタイルの変化に応じて保険を解約することができることが特徴的だ。

・資産として保険を選ぶなら終身保険
終身保険については定期保険と比べるとある程度の保険料が必要になる。一方で保険料を積み立てることができるので、保険の機能を持ちながら資産としての特徴も併せ持っていることが終身保険の利点だ。また死亡保障が不必要になった場合には、積み立てた資産を利用して他の保険に乗り換えることや、老後資金や教育資金とすることができるので、応用が利く保険だといえよう。

ただし終身保険の解約返戻金は積み立てに時間がかかるので、長期加入が前提となる。加入してすぐに解約してしまうと割高な保険になってしまうことに注意したい。

・終身保険の特約として定期保険を上乗せする
定期保険と終身保険は二者択一ではなく、どちらも選ぶことができる。終身保険を主契約としたうえで、定期保険を特約とすることができるからだ。

こうすれば、同じ補償内容で単体の定期保険に加入する場合と比べて安く加入できる。保険のセット割引のようなものだ。終身保険への加入を決めているなら、個人賠償保険のような保険へ単体で加入するより、特約をつけたほうがお得である。

保険料の目安って?

保険に求めるものが明確になったら保険料がわかるので、家計の収支と相談して決めるとよい。例とした家族の場合には1798万円の保障額が必要ということがわかった。

保険料が占める家計の支出割合の目安は5~10%といわれており、10%を超えると保険のかけすぎになり注意が必要になるが、貯蓄が目的で保険に加入するのであれば、貯蓄にまわすお金を保険に充ててもよい。

ライフイベントに応じた保険の見直しも必要

保険へ加入するとずっとそのままという人は多いが、結婚や出産を機に保険を見直すことが必要だ。保険金に過不足が生じるからである。

独身のときは自分の葬式費用が払えればいいと考えて保険金を設定したが、結婚をして妻の生活費用も準備しておきたいと考えると、全く保険金が足りなくなる。一方で家族のために保険金を多めに設定していたが、子どもが成人して一人で生きていけるようになったとしたら、“家族のための保障”は保険のかけすぎになってしまう。

保険を決めるときには、ファイナンシャルプランナーが作成するライフイベント表のようなものを作成して、家族の年齢と収支を一覧にしておくと、家族のために必要な生活資金が見てわかるようになるのでおすすめだ。

保険が必要な人と必要ない人

「保険って本当に必要ですか?」と聞かれたら、もちろん全員が加入すべきだとは思わない。会社に勤めている人は、優れた社会保険制度へすでに加入していることになるので、不足分を補える貯蓄や金融資産を保有しているなら保険は必要ない。

本当に保険が必要な人たちは貯蓄が十分でなく、いざというときの保障が不足しているような人たちだ。特に社会保険に加入していない、自分で会社を経営している人や、組織に所属せずフリーランスとして活動している人は、民間の保険が必要である。老齢厚生年金や遺族厚生年金が支給されないということは、自分たちでその部分を埋める必要があるからだ。

自分にもしものことが起こった場合に備えて、普段から準備をしておこう。