2015年、生命保険業界では大きなニュースが相次いだ。8月にかけて大手による海外同業の買収が続き、11月には日本郵政グループのかんぽ生命が上場、年末には国内でも大型買収が実現した。ただ日頃注目されることの少ない業界がこれほど賑やいだのは単なる偶然ではない。

「かんぽ」上場で企業買収が相次ぐ

相次ぐ大型買収の引き金になったのは、「かんぽ」の歴史的上場だ。株式を公開するだけなら何も変わらないように思えるが、そうではない。運用実績を追求する機関投資家が新たに株主となり、同社に利益拡大圧力をかけるからだ。

「かんぽ」が業績を伸ばすには新たに契約者を増やすか1件当たりの保険料を上積みする必要がある。ただでさえ人口減少で市場が縮小するなか、さらに市場のパイを「かんぽ」に奪われるとの危機感が大手各社をM&Aに駆り立てる。

業界の再編・M&Aを論じる前に、日本の生保市場をおさらいしておこう。個人保険の保有契約高(保障総額)は857兆円(2014年度末)で日本の年間GDPの約1.7倍。他の保険も含む保険料等収入は年間39兆円で世界シェア1割強、米国に次ぐ第2位だが、人口対比では世界一の保険大国だ。

大手各社の14年度の保険料等収入は、トップの「かんぽ」がほぼ6兆円で市場シェア15.4%、これに第一生命5.43兆円(連結ベース、以下同)と日本生命5.37兆円が続き、4位の明治安田(3.43兆円)以下に水を開けている。ただ第一が日生を押さえて「民間」トップになったのは戦後初で、実はこれも昨年の一大ニュースだった。

保険大国の生保トップは「かんぽ」

上述の保有契約高は96年度の1495兆円をピークに大きく減っているが、その件数は1.5億件強で8年連続の増加。保険料等収入は13年度に一時的要因で減ったが基調的に増加が続いている。高額死亡保障へのニーズ低下で残高が減る一方、医療保険を中心に新規契約が増えていることが件数と収入の増加につながっている。

これら市場全体の金額と件数は生命保険協会加盟42社の合計。保険料等収入の増加とともに経常利益の合計額も10年度の1.8兆円から14年度の3.5兆円とほぼ2倍になっている。一見すると業績好調が続いているが、問題はその中身だ。

生保の収入はおもに保険料等収入と資産運用益で、全収入に占める割合はそれぞれ7割弱と2割強。しかし、これらから保険等支払金や運用費用を差し引いてそれぞれ保険収支、運用収支とすると、14年度は前者が3.7兆円、後者が約11兆円と運用収支が圧倒的に多い。

つまり、全収入から準備金繰入や事業費などの費用を引いた経常利益でも運用益が大きな比重を占めることになる。10〜13年度の4年平均では保険収支が4.3兆円強、運用収支は7.8兆円弱、経常利益は2.5兆円だから、これに比べ14年度は保険収支の悪化を運用益でカバーして経常利益が増えた形になる。

有価証券は運用益の半分以上を稼ぐが、これが今後も増え続ける保証はない。とくに利上げ局面になれば、その8割程度を占めるとみられる債券の値下がりが心配だ。

業績は好調だが保険収支は悪化

先述のように、生保大手がM&Aに走るのは今後、高齢化と人口減少で保険料収入が減る一方、支払保険金が急増し、保険収支悪化が加速するのが目に見えているからにほかならない。

昨年相次いだのは国内大手による米中堅生保の買収。2月は第一がプロテクティブ生命を買収、7月には明治安田がスタンコープ・ファイナンシャル・グループ、8月は住友生命もシメトラ・ファイナンシャルの買収を発表した。いずれも5000〜6000億円規模の大型買収だ。

米生保市場は手数料収入5300億ドル(120円/ドル換算64兆円)超で全世界の約2割を占める巨大市場。今後も人口増で成長が見込めるため、日本の生保が国内市場縮小をカバーするためのかっこうのターゲットになっている。

国内でも昨年末に日生が中堅クラスの三井生命を買収総額約3200億円のTOB(株式公開買い付け)で連結子会社にした。三井は採算割れの保険契約が多いが、日生が保険料収入トップへの返り咲きを狙って買収に踏み切ったとの見方がもっぱらだ。遅々として進まない国内生保の再編にこれが火をつけるとは考えにくい。

海外展開は盛んだが国内再編は手つかず

協会加盟企業のなかには独自のニッチ路線を行く会社もあるが、それでも42社は多過ぎる。損保業界では大規模な統合・再編が進み東京海上HDをトップとする3メガ体制にほぼ集約されている。これに対し、生保業界の再編・集約はほとんど進んでいない。バブル後の中小破綻を除くと04年に明治安田生命とT&Dホールディングスが発足して以降、今回の日生による買収でわずか3件目だ。

再編が進まない理由は、大半の生保がとる「相互会社」という企業形態にある。保険契約者を社員とみなすため、統合や買収、ましてや海外M&Aとなると一般に保守的な契約者の合意は取り付けにくい。東証に公開する「株式会社」は、かんぽ、第一、ライフネットの3社のみだ。

今後、海外に活路を見いだすことが難しい多くの中小生保の経営が行き詰まるのは目に見えている。保険契約自体は制度上保護されているが、破綻が続けば社会不安を起こしかねない。当局の抜本的な政策転換が必要だが、現政権からその意志は伺えない。

政府は生保再編に無関心?

それどころか昨年末には、政府の郵政民営化委員会は、「かんぽ」の保険加入限度額を現行1300万円から2000万円に引き上げるのが妥当とした。郵政民営化の当初の理念などどこ吹く風、ゆうちょ銀行の預金限度額引き上げも含め、「かんぽ」の親会社である日本郵政の残る政府保有株を高く売ることしか眼中にないのかもしれない。

相互会社再編の道さえ開ければ、大手生損保主導による国内生保業界の健全化が見えてくるのだろうが……。(シニアアナリスト 上杉光)

【編集部のオススメ記事】
2017年も勝率9割、株価好調の中でもパフォーマンス突出の「IPO投資」(PR)
資産2億円超の億り人が明かす「伸びない投資家」の特徴とは?
株・債券・不動産など 効率よく情報収集できる資産運用の総合イベント、1月末に初開催(PR)
年収で選ぶ「住まい」 気をつけたい5つのポイント
元野村證券「伝説の営業マン」が明かす 「富裕層開拓」3つの極意(PR)