(写真=PIXTA)
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「残された家族の生活を保障する」あるいは「残された家族として生活を保障してもらう」という生命保険の概念は万国共通だろうが、保険に対するアプローチには各国の背景や国民性が反映されているような印象を受ける。

英国在住のフリーライターである筆者が20年ほど前から生命保険に加入していることを知ると、驚く人のほうが断然多い。その事実が示すように、「保険発祥の地」といわれる英国では意外と生命保険の加入率が非常に低いのが特徴だ。

日本は8割の世帯が生命保険に加入している

英保険会社ドリューベリーが2015年、国内の有職者1820人(77%が世帯者で48%は子供のいる世帯)を対象に実施した調査では、自動車保険と家財保険の加入率が75%と71%と最も高いのに対し、生命保険の加入率はわずか38%でペット保険の加入率(25%)と競り合っている――。

全世代の平均にすると8割の世帯が生命保険に加入しているという日本人の感覚では理解に苦しむ結果だろう。

さらに驚いたことにペット加入率は2013年から6%の伸びを見せたにも関わらず、生命保険の方は平行線で、両親家庭の50%、一人親家庭の62%が生命保険に加入していない。

生命保険に加入しない理由

数字だけ見る限り「イギリス人は人間の命よりも、ペットの命を重視するのか」という疑問が生じても不思議ではないが、生命保険に加入していない理由としては「掛け金が高額過ぎる(41%)」「保険プロバイダー(保険会社)を信用できない(20%)」「(独身、あるいは子供が成人して)扶養すべき家族がない(20%)」などが挙げられている。

近年は「毎月5ポンドから」など安さをウリにした商品も多数販売されているため、根底には、英国政府が住宅ローンなども含めて、最低限の生活を保障してくれる社会福祉制度がセーフティーネットとなり、一般階級には「万一の事態に備えて整えておく」という切羽詰まった意識がそれほど浸透していないという背景があるのかも知れない。

英国の保険は本当に「高過ぎる」のか

それでは英国人が「高過ぎる」という生命保険は、本当にそれほど「Unreasonable(不合理)」なのだろうか。確かにひと昔前までは高額商品のイメージが強かったが、近年はプロバイダーの顧客獲得競争が大幅に掛け金を引き下げている。

当然ながら商品の種類、受取金の額、被保険者の年齢や健康状態等が毎月の掛け金の額に反映されるため、最近筆者が複数のプロバイダーに請求した「平準定期保険」の見積もりによる1例となるが、筆者のように40代前半の女性(非喫煙者)が払い込み期間10~30年、死亡保障1万7000ポンド(約280万円)の保険に加入した場合、毎月の掛け金はチューリッヒなどの大手が提供している商品でもわずか5ポンドだ。払い込み期間30年で保険金を3万5000ポンド(約2000万円)に設定した主人(30代後半)ですら、最高11.25ポンド(約1906円)という見積もりが届いた。

掛け捨てとはいえ、夫婦そろってわずか16ポンド(約2711円)程度の掛け金となれば相当お得感が強いように感じるのだが、「死亡しなければ戻ってこないお金にはビタ一文払いたくない」という声が多く聞かれるのも事実ゆえに、この国では個人の「無駄遣い」に関する価値観が生命保険の加入、非加入に大きく左右されるものと推測される。

保険は「売られる」のではなく「買う」時代

「平準定期保険」「終身保険」「逓減定期保険」「逓増定期保険」「家族収入保険特約」「ハイリターン(変額)保険」といった日本でもお馴染みの商品から、癌を含む特定の重病と診断された際に保険金がおりる「重病保険」、夫婦一緒に加入できる「共同保険」、小売物価指数(RPI)に基づいて保険価値を一定に保つ「インデックス・リンクド定期保険」、住宅ローンの残高をカバーしてくれる「住宅ローン保険」など、個人のニーズや生活背景によって複数の保険を組み合わせ、組み換えすることも可能である。

最も信用できるプロバイダーとして人気が高いのは銀行系。保険会社ではAvivaやチューリッヒといった大手勢が幅をきかせているが、近年はテスコやマークス&スペンサーなどの小売店も、安さと気軽さをウリにした保険で顧客競争の火種となっている。
加入先を検討する手段では「価格(サービス)比較サイト」の利用者が著しく増えており、消費者側に「売られる」よりも「買う」意識が高くなっている。

英国人気質の現れか?

よほどの資産家や実業家は別として、「子供の誕生」や「住宅購入」などがキッカケになるという点は英国でも同じだ。政府からのセーフティーネット以外にも何らかの確固とした保障を求める人々が、毎月せっせと掛け金を払い込んでいるものと思われる。

仕組みや契約内容が理解しやすく低リスクな「平準定期保険」「終身保険」「家族収入保険特約」などの人気が高いが、「何だかんだと理由をつけて保険金を支払ってくれないのではないか」という消費者の心配とは裏腹に、英国では「保険金の払い渋り」は意外と少ないようで、2013年の支払い率は99%と非常に高い。家族の保険金を受け取るという不幸を経験した筆者の周囲の人々からも、支払いに関してコレといった不満は聞いた記憶がなく、保険金の支払いが滞るパターンとしては、親族内の遺産相続問題が圧倒的に多いような気がする。

掛け金が安くて払い渋りもないとなれば、加入率が伸びないほうがおかしいとは思うのだが、その辺りに「不確かなモノはすべて無駄遣い」と見なす典型的な英国人気質が現れているのかもしれない。(アレン・琴子、英国在住のフリーライター)

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