この記事は2022年6月7日に「ニッセイ基礎研究所」で公開された「新型コロナウイルスと保険金支払-「自宅療養」「みなし陽性」「自主療養」、入院給付金は支払われるのか」を一部編集し、転載したものです。
はじめに
新型コロナウイルスについては、今年に入ってからのオミクロン型の感染拡大を受け、従来からの「自宅療養」に加え、「みなし陽性」「自主療養」が報道される等複雑な状況になっている。ここでは、それぞれの概要ならびに入院給付金の取扱いについて紹介したい。
自宅療養
新型コロナウイルスの感染拡大、医療機関等の逼迫を受け、令和4年3月より、宿泊施設や自宅等で安静・療養を行ういわゆる「自宅療養」が認められている。
多くの保険会社では、約款上、入院給付金の支払事由について、「治療を目的とした病院または診療所への入院」であることが定められており、自宅療養は該当しないように見える。
しかし、保険会社各社は、この場合でも入院給付金の支払を行っている。言ってみれば約款規定を超えた取扱いのようにも見えるが、医療機関等の逼迫に伴う社会的要請を受けての対応と考えられる。
なお、新型コロナウイルスに罹患した場合の厚生労働省が定める療養期間(入院・宿泊療養・自宅療養)は、有症状と無症状で異なり基本的には以下の通り。
有症状:発症日を0日目とし10日目まで無症状:検体採取日を0日目とし10日目まで(オミクロン型罹患は7日目まで)
一方、入院給付金の支払対象期間は、PCR検査等で「陽性と診断された日」から療養期間終了日とする会社が多いようである。例えば、有症状の場合で、陽性診断が0日目となる場合は、0日目から10日目までの11日間(ケース①)、陽性診断が1日目となる場合は、1日目から10日目までの10日間(ケース②)が支払対象期間となる[図表]。
みなし陽性
オミクロン型の感染拡大を受け、令和4年1月24日付で「(1)本人の提示する簡易検査の結果を用いて医師がコロナと診断」すること、「(2)陽性となった同居家族等の濃厚接触者が有症状となった場合、検査を行わなくても臨床症状から医師がコロナと診断」すること等が認められることとなった。上記(1)に加えて、(2)の場合(疑似陽性患者)も、各種報道で「みなし陽性」と表している例も少なくない。
これらについて、医師による診断確定があり、感染法上の届出・外出制限等も従来同様に求められること等から、保険会社も入院給付金の支払対象としている。
自主療養
神奈川県では、感染者の急増を受け、令和4年1月28日より、検査キット等で陽性判明した人が、オンラインで必要事項を入力すれば、勤務先等に提出できる「自主療養届」の発行を開始した。
当取扱いは、先述の「みなし陽性」とは異なり、「約款上定められている、診断書や証明書の提出がない」、「医師による確定診断が行われない」等の課題も考えられ、保険会社としても対応に苦慮している旨の報道も見られた。しかしながら同2月18日以降、一転して保険会社が支払う旨、報道されている。
上記「自主療養届」とは別の、保険金請求用の「療養証明書」を神奈川県が発行する等、保険会社として必要な事項への対応を神奈川県が行ったこともあって、保険会社としても支払える状況が整ったと判断したものと考えられる。
おわりに
既述の通り、これらは医療機関等の逼迫に伴う社会的要請を受けての対応と考えられるが、契約者間の公平性等を考えると、状況が落ち着いた際は、従来通りの取扱いに戻るのではないかと思われる。
これまで災害等の発生時には、生保業界は、誠心誠意被害者に寄り添った対応を行ってきた。新型コロナウイルス関係の対応においても、社会的要請に応え、患者に寄り添う対応をすべく、可能な限り柔軟な約款解釈に基づく取扱に尽力するのみならず、感染の急拡大に伴い請求も急増する中、各社の支払部門では、他部門に異動した経験者に手伝ってもらって対応する等、文字通り必死の取組を行っている。引き続き、状況の変化や保険会社の取組みについて注視していきたい。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
有村寛(ありむら ひろし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 主任研究員
【関連記事 ニッセイ基礎研究所より】
・パンデミックは生命保険需要を大きく喚起するのか ―― 米国の従業員マーケットから
・アジア消費者、新型コロナウイルスにより家計・健康を懸念
・パンデミックがアジア太平洋の消費者に与えた影響 ―― 保険への関心の高まりとデジタルアクセスの急増
・シンガポール、人による保険サービスに根強いニーズ
・インド、アセアン諸国における個人向け損保商品のデジタル化の状況