確定申告の時期が近づいても「バレなければいい」と開き直る人もいる。実際、確定申告をしないとどうなるのか。知らない人もいるだろうが、無申告の損失は思いのほか大きい。現役税理士が、確定申告の制度の内容と、申告をしなかったときの損失について解説する。

鈴木 まゆ子
鈴木 まゆ子(すずき・まゆこ)
税理士・税務ライター。税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒業後、㈱ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。「ZUU online」「マネーの達人」「朝日新聞『相続会議』」などWEBで税務・会計・お金に関する記事を多数執筆。著書「海外資産の税金のキホン(税務経理協会、共著)」。

確定申告の期限に関するQ&A

確定申告,しない
(画像=PIXTA)

最初に確定申告の期限に関する4つの問いに答える。

Q


確定申告って何?

確定申告とはその年の1月1日から12月31日までの所得と税額を計算し、税務署を通じて国に書面で報告する手続きをいう。計算の結果、税額が生じれば納税するが、源泉徴収などですでに納めた税額のほうが申告する税額よりも多ければ還付となる。

確定申告とはその年の1月1日から12月31日までの所得と税額を計算し、税務署を通じて国に書面で報告する手続きをいう。計算の結果、税額が生じれば納税するが、源泉徴収などですでに納めた税額のほうが申告する税額よりも多ければ還付となる。


Q


確定申告の期限はいつ?

確定申告の期限は原則、翌年の3月15日までだ。ただしこれは納税額が生じたときの期限である。所得額と税額を計算して納税することになったら、申告と納税の両方を3月15日までに済ませなくてはならない。なお、計算の結果、還付となったら翌年1月1日から5年間は申告可能だ。しかし遅すぎると住民税で節税が難しくなるので要注意だ。

確定申告の期限は原則、翌年の3月15日までだ。ただしこれは納税額が生じたときの期限である。所得額と税額を計算して納税することになったら、申告と納税の両方を3月15日までに済ませなくてはならない。なお、計算の結果、還付となったら翌年1月1日から5年間は申告可能だ。しかし遅すぎると住民税で節税が難しくなるので要注意だ。


Q


申告しないとどんなペナルティがあるの?

期限までに申告しないと無申告加算税・延滞税・重加算税といった税金が別途ペナルティとしてかかる。また期限後申告になると青色申告をしている人は2つの点で損をする。1つは青色申告の特別控除が10万円しか受けられない点、もう1つは2年連続で期限後申告になると青色申告自体が取り消されてしまう点である。

期限までに申告しないと無申告加算税・延滞税・重加算税といった税金が別途ペナルティとしてかかる。また期限後申告になると青色申告をしている人は2つの点で損をする。1つは青色申告の特別控除が10万円しか受けられない点、もう1つは2年連続で期限後申告になると青色申告自体が取り消されてしまう点である。


Q


確定申告は期限を過ぎてもできる?

確定申告は期限を過ぎてもできるが、扱いは「期限後申告」となる。期限後申告だと遅れた分だけ延滞税がかかるほか、タイミングによっては無申告加算税を払うことになる。なお、還付申告は所得や税額が発生した年の翌年1月1日から5年間できる。3月16日以降も申告できるが、遅すぎると住民税の節税が難しくなる。

確定申告は期限を過ぎてもできるが、扱いは「期限後申告」となる。期限後申告だと遅れた分だけ延滞税がかかるほか、タイミングによっては無申告加算税を払うことになる。なお、還付申告は所得や税額が発生した年の翌年1月1日から5年間できる。3月16日以降も申告できるが、遅すぎると住民税の節税が難しくなる。

なぜ確定申告をしなくてはいけないのか

そもそも、なぜ確定申告をしなくてはいけないのだろうか。年末調整という制度があるのでイマイチ確定申告の重要性がわからない人もいるだろう。しかし日本では申告納税制度を採用しているため、「確定申告と納税は国民の義務」となっている。

申告納税制度とは、国民が自主的に自分の所得額や税額を計算して申告・納税する制度である。そのため本来、確定申告は国民全員がすべきものとなっているのだ。

ただし、徴税コストや手間の問題から、会社員など会社での年末調整で年間の税額の精算・納税が完結する人などは確定申告をしなくてもよいことになっている。現実と理論がかい離しているが、基本的に確定申告は誰もが行うべきものなのだ。

確定申告をしないといけない人

確定申告をしないといけない人は「年末調整だけで完結しない人」「年末調整をそもそも受けない人」だ。主に次のような人は確定申告の義務がある。

●個人事業主・不動産オーナー

事業所得のある個人事業主や不動産所得のある不動産オーナーは、確定申告を行わなくてはならない。

特に、青色申告の適用を受けている場合、所得額や赤字・黒字に関係なく毎年申告が必要だ。後述するが、2期連続で申告を期限内に行わないと、青色申告は取り消されてしまう。

●財産を売った人

自宅や別荘、ゴルフ会員権といった財産を売った人も確定申告が必要だ。特に自宅を売ったときは、確定申告をすれば最高3,000万円の特別控除が受けられるなどのメリットがある。

なお、生活用品は売却しても課税されないので確定申告は必要ない。ただし、貴金属や宝石、骨とう品や美術品で1単位当たりの時価が30万円を超えるものは確定申告が必要だ。

●株やFXで投資をした人

株式や投資信託、FX(外国為替証拠金取引)や暗号資産(仮想通貨)などの投資を行っている人も確定申告が必要だ。株式や投資信託は譲渡所得、FXは先物取引等に係る雑所得(分離課税)、暗号資産は雑所得(総合課税)で申告する。ただし、株式や投資信託を源泉徴収ありの特定口座で運用している場合、確定申告は不要となる。

●副業の所得合計が20万円を超えるサラリーマン

正社員や派遣社員など給与所得を受け取っている人で、副業の所得合計が20万円を超える人は確定申告が必要だ。副業には既述の不動産投資や株、FXなどの投資を含むほか、Webデザインやアフィリエイトなどの仕事も含まれる。独立して仕事で得た収入は「雑所得(総合課税)」で申告する。 なお、所得と収入は違う。所得は稼ぎ方によって10種類の区分に分けた後、「年間収入額-年間の必要経費」で計算したものだ。厳密には区分ごとに所得の計算の仕方は異なるが、イメージとしては「所得=利益」と考えてよいだろう。

確定申告をしないときの損失4つ

確定申告をしないと次のようなデメリットが生じる。

  1. ペナルティを支払う
  2. 損失の繰越ができなくなる
  3. 青色申告の承認が取り消される
  4. 資金調達ができない

「バレなければ困らない」というイメージの強い無申告だが、今年から「バレなくても困る」ようになった。新型コロナウイルス感染症の影響で経済活動が一気に低迷した今年、多くの事業主が困窮したが、最も痛手だったのは「これまで無申告だった事業主」だろう。これは「損失4」で後述する。

損失1:ペナルティを支払う

無申告が発覚すると、本来納めるべき税金以外に、無申告加算税や延滞税といったペナルティを支払わなくてはならなくなる。それぞれのペナルティは次のようになっている。

●無申告加算税

無申告加算税は申告期限までに確定申告をしなかったときに科されるペナルティだ。納付すべき税額のうち50万円までは15%、50万円超の部分については20%が課税される。ただし、期限後1ヵ月以内に確定申告したり、税務署から指摘される前に自主申告したりすれば軽減される。

●延滞税

延滞税は納税が法定納期限に行われないときに科されるペナルティだ。納期限の翌日から完納されるまでの日数に応じた割合を納付すべき税額に乗じて計算する。税率は、2020年12月現在、納期限の翌日から2ヵ月以内の部分については年2.6%、2ヵ月を超えた部分については年8.9%となっている。

無申告が悪質なごまかしや隠ぺいによるものだとわかったときは、無申告加算税に代えてより重い重加算税が科される。重加算税だと一律40%になる。

まとめると、無申告が悪質なら納税額が1.4倍以上に跳ね上がるということだ。

損失2:損失の繰越ができない

上場株式などの譲渡所得や青色申告の事業所得・不動産所得には「繰越損失」という仕組みがある。株式投資で生じた損失や青色申告をしている個人事業主や不動産オーナーの事業上の損失を、翌年以後3年間繰り越せるというものだ。結果、翌期や翌々期が黒字になっても、繰り越した赤字と相殺すれば課税される所得額を下げ、節税することができるのである。

ただしこれは「毎年申告していること」が前提だ。申告していない年があると繰越はできない。無申告だと節税ができなくなってしまうのだ。

損失3:青色申告の承認が取り消される

事業所得や不動産所得、山林所得には青色申告という制度がある。この適用を受けていると記述の繰越損失のほか、次のようなメリットがある。

 特別控除ができる(65万円・55万円・10万円)
 損失の繰戻還付ができる
 30万円未満の資産を事業用にするとすぐに経費計上できる
 貸倒引当金を計上できる
 家族への給与を青色事業専従者給与として経費計上できる

こういった特典を享受できるのは毎年必ず申告をしている人だけだ。2期連続で期限内の申告が間に合わないと青色申告の承認が取消になる。いったん取消になると青色申告の特典がすべて使えず、納税額が増えてしまう。

なお、65万円・55万円の特別控除は期限内申告が条件だ。期限後申告になると10万円しか控除できないので注意しよう。

損失4:資金調達ができない

確定申告をしないと資金調達ができない。融資でも出資でも、お金を出す側は確定申告書だけでなく一緒に提出する収支内訳書や青色申告決算書も必ず確認するからだ。無申告というだけで、資金調達の土俵に乗ることができない。

特にコロナ禍で経済が一気に悪化した今年、無申告のデメリットが表面化した。多くの事業主やオーナーが資金繰りに苦しんだが、毎年所得額や税額を計算し、確定申告を行ってきた人は痛手が軽く済んだ。コロナ禍対策の融資や持続化給付金、各種補助金、家賃支援給付金は確定申告や決算書を提出してきた人だけが対象だったからである。

日頃から確定申告の作業を怠らなかった人は各種給付金や融資で急場をしのげたが、無申告だった人は申請すらできず、苦境に陥った。申告の義務を真面目に守っている人は緊急時に強いのである。

期限後でも申告はできる

人によっては家庭や仕事の事情で期限内に申告できないこともあるだろう。こうなると「間に合わないからいいや」となりがちだ。しかしそれでも申告したほうがよい。期限後申告という扱いになるが、しないよりはマシだ。

期限後申告とは、確定申告の本来の申告期限より遅れて確定申告書を提出することをいう。所得税の確定申告なら、翌年の3月16日以降に申告書を提出する行為だ。

「青色申告の特別控除が一律10万円になる」「無申告加算税や延滞税がかかる」といったデメリットがあるが、損失の繰越控除などほかの節税メリットは維持できる。また、コロナ禍のような緊急時の資金調達でも「申請」という第一段階に乗ることができる。

期限後だからと放置せず、きちんと申告しよう。

納税が苦しいなら「延納」しよう

納税は原則「一括現金で納付」だ。しかし中には、一度に納税をすると生活や事業で困るといいう人がいるかもしれない。そんな人は延納という制度を活用しよう。

所得税・復興特別所得税の延納とは、申告期限までに納付すべき税金の1/2を納めれば、残額の納税を5月31日までに先延ばしできる制度だ。延納期間中は年1.6%の割合で利子税がかかるが、分割で資金繰りがラクになるなら検討したい。

手続きは簡単だ。確定申告書第一表の「延納届出額」の欄に延納したい税額を記載すればいい。特別な届出書や書類の提出は不要だ。

確定申告をしないことの損失を4つ挙げたが、最大の損失は「社会人として守るべきルールを守れない人」とされ、周囲から信用されなくなることかもしれない。確定申告の必要がある人は、期日までに申告・納税するようにしよう。

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