今まで会社勤めだった人が、個人事業主になる例は少なくない。そのような人にとって、初めての確定申告は、知らないことばかりだろう。ここでは、初めて確定申告を行う人向けに、基礎から詳しく説明する。

井上 通夫
井上 通夫
行政書士。大学卒業後、大手信販会社、大手学習塾などに勤務後、福岡市で行政書士事務所を開業。現在、相続・遺言、民事法務(内容証明、契約書、離婚協議書等の作成)、公益法人業務、各種許認可業務など幅広く担当。

個人事業主・確定申告にまつわるQ&A

個人事業主,確定申告
(画像=PIXTA)
Q


確定申告とは何か?

確定申告とは、主に個人事業主が、1年間の売上額や必要経費などを計算したうえで、課税対象の所得額を税務署に申告する制度である。

確定申告とは、主に個人事業主が、1年間の売上額や必要経費などを計算したうえで、課税対象の所得額を税務署に申告する制度である。


Q


なぜ個人事業主に確定申告が必要なのか?

個人事業主が申告しなければ、税務署が所得額を把握する方法がないからである。会社員は、源泉徴収や年末調整によって、税務署が課税所得額を把握できるが、個人事業主の場合は、個人事業主自らが申告する方法でしか、税務署が把握できないのである。

個人事業主が申告しなければ、税務署が所得額を把握する方法がないからである。会社員は、源泉徴収や年末調整によって、税務署が課税所得額を把握できるが、個人事業主の場合は、個人事業主自らが申告する方法でしか、税務署が把握できないのである。


Q


白色申告と青色申告の違いは?

白色申告は、事業の収入・支出について、単純に計算する「単式簿記」で帳簿をつければよい。一方、青色申告は、単式簿記か、経費の各項目(勘定科目)に分けて金額を記載する複式簿記のいずれかを選んで、帳簿をつける。

白色申告は、事業の収入・支出について、単純に計算する「単式簿記」で帳簿をつければよい。一方、青色申告は、単式簿記か、経費の各項目(勘定科目)に分けて金額を記載する複式簿記のいずれかを選んで、帳簿をつける。


Q


確定申告の時期は?

確定申告の時期は、基本的に毎年2月16日から3月15日までの1ヵ月間である。ただし、期限の3月15日が土曜・日曜・祝日の場合は、翌日まで延長される。

確定申告の時期は、基本的に毎年2月16日から3月15日までの1ヵ月間である。ただし、期限の3月15日が土曜・日曜・祝日の場合は、翌日まで延長される。

確定申告とは?

●個人事業主に必要となる確定申告

過去に会社員の経験がある人はわかると思うが、会社員は、税金を意識することはあまりない。自分が年間いくらの所得税や住民税を納めているのか、きちんと把握している会社員は少数派だろう。

これは、会社員の納税の仕組みが大きく影響している。会社員の場合、源泉徴収、年末調整というシステムが取られているからだ。源泉徴収とは、個人の所得額に基づいて、税金などを計算し、あらかじめ給与から差し引くことである。ただし、毎月の税金などに少しずつ誤差が生じるので、年末に誤差を調整する必要がある。さらに、個々の会社員に適用される所得控除(扶養控除、社会保険料控除など)がある場合は、年末にこれらが適用される。これが年末調整である。

しかし、個人事業主になると、以上の手続きを会社がやってくれるわけではないので、自分でやらなければならない。1年間の売上金額から必要経費を差し引き、さらに各種の所得控除を引いて、課税所得額を税務署に申告するのである。これが確定申告だ。

前年の1月1日から12月31日に発生した売上金額、必要経費、各種の所得控除に基づいた確定申告を2月16日から3月15日の間に申告し、同じ期間に所得税を納めなければならない。

●確定申告のメリットは?

個人事業主にとって、確定申告のメリットは、必要経費がかなり認められることである。会社員の場合、交通費や各種の所得控除が給与から控除されるぐらいで、節税には限界がある。

しかし確定申告の場合、事業にかかわる経費で領収書が保存されていれば、必要経費として、売上金額から控除することができる。もちろん、経費を拡大解釈することはNGだが、会社員と比べて、必要経費が認められていることは、大きなメリットと言える。

●確定申告のデメリットは?

個人事業主にとって、確定申告のデメリットは、作業が煩雑なことだ。まず日々の売上金額と必要経費をきちんと帳簿に記載しなければならない。また、必要経費の領収書を取引先から発行してもらい、きちんと保存しておく必要がある。

そのうえで、確定申告書と収支計算書を作成し、2月16日から3月15日の間に税務署に提出しなければならない。準備期間、作成時間が十分にあるように思えるが、日々の業務の合間に行うことになるので、計画的に行わないと、締め切り間際に慌てることになる。

白色申告と青色申告

●白色申告とは?

白色申告では、事業の収入と支出について、単純に現金の出入りを計算して記帳する「単式簿記」で帳簿をつければよいことになっている。

白色申告を選択する場合は、特に届け出る必要はない。日々の帳簿付けも比較的簡単にできるため、手間がかからない方法だと言える。ただし、青色申告と違って、特別控除がない。

●青色申告とは?

青色申告では、帳簿について、単式簿記か、あるいは経費の勘定科目に分類して金額を記載する「複式簿記」を選ぶことになる。

複式簿記は、事業で発生した経費を項目に分類しなければならないので、単式簿記よりも作業が煩雑である。ただし、複式簿記を選択すれば、確定申告の際に、最大65万円の特別控除を受けることができるので、税の負担がかなり減る。

さらに、複式簿記を選択して、青色申告で確定申告を行った場合、事業で発生した赤字を3年間にわたって繰越すことができる。これにより、それぞれの年の課税所得額を減らせるメリットがある。また、貸倒引当金を一括処理できるなどのメリットもある。

青色申告で確定申告を行うためには、事前に納税を行う税務署長宛に、「青色申告承認申請書」を提出しなければならない。この申請書の提出期限は、以下のようになっている。

・1月1日から1月15日までに事業を始めた場合は、その年の3月15日までに申請する。
・1月16日以降に事業を開始した場合は、開始日から2ヵ月以内に申請する。
・白色申告から青色申告に変更したい場合は、青色申告したい年度の3月15日までに申請する。

白色申告は、以前は帳簿を付ける必要がなく、青色申告に比べて負担が低かったが、2014年1月から、白色申告にも記帳と帳簿の保存が義務化されるようになった。したがって、現在は白色申告のほうが青色申告よりも負担が軽いとは言えなくなった。

現在では、使いやすい会計ソフトがあったり、国税庁のホームページを使って簡単に帳簿を作成できたりするので、青色申告で確定申告を行う人が増えている。

確定申告が必要な人は?

●個人事業主

個人で事業を行っている人、例えば、弁護士、司法書士、行政書士などの専門職で、法人化していない個人事業主は、確定申告を行う必要がある。

●自営業者

アルバイトを含めて、会社などに所属せず、自分で仕事をして収入を得ている人は、確定申告をする必要がある。

自営業の範囲には入らないが、高齢者で年金を受給している人も、確定申告を行わなければならない。ただし、公的年金等の収入金額が400万円以下で、その公的年金などのすべてが源泉徴収の対象となる場合は、確定申告の必要はない。

●一部の会社員

会社員は、源泉徴収、年末調整の対象者なので、確定申告の必要はない。ただし、以下に該当する会社員は、確定申告を行う必要がある。

・給与の年間収入金額が2000万円を超える会社員
・2ヵ所以上の会社から給与を得ている会社員
・副業の収入が年20万円を超える会社員
・外国企業から受け取った退職金など、源泉徴収されないものがある会社員

確定申告の時期と方法

●時期

確定申告の時期は、2月16日から3月15日までだ。この1ヵ月間に、前年の1月1日から12月31日までの売上金額から必要経費、各種控除額を差し引き、課税される所得額を申告する必要がある。ただし、3月15日が土曜・日曜・祝日の場合は、翌平日までに期間が延長される。

確定申告を行った後で、金額の間違いなどに気付き、訂正したい場合は、申告期限内に申告書を修正し、再提出すればよい。期限内で、最後に提出された申告書が、正規の申告書として受け付けられる。

●方法

確定申告書、収支内訳書(白色申告の場合)、青色申告決算書(青色申告の場合)を作成した後は、資料を添付して、各税務署の窓口へ持参あるいは郵送するか、e-Taxで税務署に送信する。

税務署が受理すれば、手続きは完了だ。ただし申告書などの内容に不備があれば、税務署から連絡があり、修正することになる。その際、帳簿、領収書などが必要なので、準備しておこう。

確定申告が必要な書類と手順

●書類

確定申告に必要な書類は、確定申告書、収支内訳書、青色申告決算書である。

確定申告書には、A様式とB様式がある。納税者の所得の種類で、A、Bのどちらを使用するかが決 まる。会社員、年金生活者、一時所得がある人は、A、Bのどちらを使ってもよい。しかし、個人事 業主など、事業所得を申告する人は、Bを使用する。

確定申告書は、国税庁のホームページからダウンロードして入手できるほか、各税務署、確定申告会場、市区町村役場の窓口にもある。また、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を使用することで、申告書をプリントアウトせず、直接数値を入力して、申告が可能だ。

収支内訳書、青色申告決算書は、確定申告書に添付する書類である。白色申告の場合は、収支内訳書、青色申告の場合は、青色申告決算書を添付する。収支内訳書、青色申告決算書は、国税庁のホームページや各税務署で入手できる。また、確定申告ソフトや、国税庁ホームページの「確定申告書等作成コーナー」を使用して作成できる。

●手順

まず、必要書類や申告のための環境を整えなければならない。

必要書類には、確定申告書、収支内訳書(白色申告)、青色申告決算書(青色申告)などがある。また、申告書の作成に必要なものは、印鑑(認印でも可)、口座情報(還付金用)、帳簿、領収書・レシートなどだ。そのほか必要に応じて、医療費控除の明細書、社会保険料控除証明書、寄附金受領証明書、社会保険料控除証明書なども準備する。

提出時に必要なものは、マイナンバーカード(マイナンバー通知カード)、ICカードリーダーライター(e-Taxで送る場合)などである。

次に、帳簿を整理する。帳簿とは、事業収入と必要経費などの現金の流れを記録した書類である。事業者は、毎日の取引を帳簿に記録し、領収書・レシートを一定期間保管しなければならない。

帳簿を基にして1年間の売上金額、必要経費を記入した内訳書を完成させる。帳簿の様式(形式)には、特に決まりはない。手書きでもExcelでも構わない。ただし、確定申告ソフトなどのツールを使えば、さまざまな手間が省ける。

準備が整ったら、確定申告書に必要事項、金額を記載する。記載方法は、申告書に数値を手書きする、会計ソフトを使って入力する、税理士に依頼する、国税庁ホームページにある「確定申告書等作成コーナー」を使って作成するなどの方法がある。

確定申告書ができれば、確定申告書と必要書類を税務署宛に提出する。提出方法は、税務署に持参する、郵送する、e-Taxを使って電子送信する方法などがある。

最後に、税金を納付する。所得税は3月15日、消費税は3月31日が納付期限だ。なお期限が土日、祝日の場合は、翌平日が期限となる。

確定申告の注意点

確定申告で、最も注意すべきことは、帳簿の整理である。

確定申告に記載する金額は、事業収入と必要経費の合計、そして各種の控除額である。事業収入と必要経費について、毎日帳簿に記帳しておけば、申告の前に慌てる必要はない。そのためには、領収書、通帳の記帳を基に、できれば毎日、少なくとも毎月整理しておくとよい。また、各種の控除額は、控除を証明する領収書、控除証明書などをきちんと保存しておく必要がある。

必要経費をクレジットカードで支払った場合も、明細書を保存しておかなければならない。紙の明細書ではなく、パソコンやスマートフォンに電子明細で受け取ったら、プリントアウトしておく必要がある。

なお、確定申告をすべき納税者が申告しなかった場合は、税務署から指摘があり、期限後でも申告をしなければならない。その際に、その納税者の納税額の50万円までは15%、50万円を超える部分については20%の無申告加算税が課される。ただし、税務署から指摘される前に、納税者が期限後に申告した場合、無申告加算税は5%となる。

また、所得税を納めるべき納税者が、期限までに税金を納めなかった場合は、延滞税が課されてしまう。延滞税の金額は、年度や状況によって異なる。詳しい金額などは、国税庁のホームページで確認できる。