みなさんこんにちは!
相続専門の税理士法人トゥモローズです。
お父さん、お母さんが若くして亡くなってしまった場合や未成年の孫が養子になっている場合など相続人の中に未成年者がいる場合もあり得ます。
未成年者であっても相続税の申告が必要となります。
今回は、相続人に未成年者がいる場合の相続税申告について、その注意点等について徹底的に解説します。
目次
未成年者とは
未成年者とは、20歳未満の人をいいます。
根拠条文は、下記民法です。
成年に達していない人=未成年者であるから20歳未満の人(19歳以下の人)が未成年者に該当するのです。
なお、この未成年者の定義も民法改正により、2022年(令和4年)4月1日から18歳未満となります。
後ほど紹介する未成年者控除の計算も18歳になったことにより一定の調整が必要となりますので注意しましょう。
未成年者がいる場合の遺産分割協議
未成年者が法律行為をするときはその法定代理人(親権者)の同意を得る必要があります。したがって、未成年者単独で遺産分割協議をすることはできません。また、共同相続人の中に法定代理人である親権者がいる場合には未成年者と法定代理人で利益相反してしまうため特別代理人を家庭裁判所にて選任する必要があります。なお、特別代理人の選任申立ての際に遺産分割協議案を家庭裁判所に提出することになりますが、未成年者に不利な遺産分割協議案(未成年者の取得が法定相続分未満など)の場合には、その特別代理人の選任が認められないことがあります。
特別代理人は誰にする?
特別代理人に資格等は必要ないため共同相続人以外であれば基本的に誰でもなれます。
実務的には共同相続人以外の親族を選任することが多いでしょう。
具体例で考えてみましょう。
- 被相続人:夫
相続人:妻、長男5歳、長女3歳
【解説】
法定代理人である妻は共同相続人に該当するため長男と長女の代理人にはなれません。
夫や妻の親が存命ならばその両親(未成年者からしたら祖父母)に特別代理人をお願いするケースが多いでしょう。
夫の両親がいいのか、妻の両親がいいのか、正直どちらでもいいとは思いますが、夫の両親にお願いしたほうがより家庭裁判所の心象はいいかもしれません。
なお、未成年者二人に別々の特別代理人を選任する必要があります。二人に同じ特別代理人だとそこも利益相反になってしまいますからね。例えば、長男には祖父が長女には祖母がそれぞれ特別代理人なるというような感じです。
特別代理人の選任方法
特別代理人の選任は家庭裁判所で行います。
申し立てを行う家庭裁判所は、相続人である未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所です。
特別代理人の選任申立には下記の書類が必要となります。
なお、申立にかかる費用は収入印紙800円と連絡用の切手代(所轄の裁判所に確認してください)となります。
未成年者控除
相続人の中に未成年者がいる場合にはその未成年者の相続税額から一定額を控除することができます。
これを「未成年者控除」といいます。
未成年者控除の要件
未成年者控除の要件は下記4つです。
要件で悩ましい論点をQA方式で解説します。
①相相続財産を一切取得しなかった未成年者
未成年者控除適用不可
【解説】
要件②の相続又は遺贈により財産を取得していないため適用ができません。したがって、未成年者控除の適用をしたい場合には1万円でもいいので財産を取得させなければなりません。
②相続放棄をして生命保険金などのみなし相続財産の取得もしていない未成年者
未成年者控除適用不可
【解説】
要件②の相続又は遺贈により財産を取得していないため適用ができません。
③相続放棄をしたが生命保険金を受け取った未成年者
未成年者控除適用可
【解説】
生命保険金の受け取りは相続又は遺贈により財産を取得した者に該当するため未成年者控除の適用が可能です。
⑤遺贈により財産を受け取った相続人でない孫
未成年者控除適用不可
【解説】
要件③の法定相続人であることに該当しないため適用できません。
未成年者控除の計算方法
未成年者控除は下記計算式で求めることができます。
※1 民法改正により未成年者の年齢が18歳に引き下げられる影響で、2022年4月1日以降の相続案件より、18歳で判定します。
※2 1年未満切捨て
具体的に計算してみましょう。
- 相続開始時の年齢が15歳5ヶ月の場合
(20歳-15歳(端数は切り捨て))✕10万円=50万円
控除しきれない場合
未成年者控除前の相続税額より未成年者控除額の方が大きい場合にその控除しきれない金額をその未成年者の扶養義務者から控除することができます。
扶養義務者の定義は下記通達に定められています。
簡単に言うと下記の人たちです。
- 【扶養義務者】
□夫や妻
□父や母
□子や孫
□祖父母
□兄弟姉妹
□家庭裁判所の審判を受けて扶養義務者となった3親等内の親族
□生計を一とする3親等内の親族
など
具体的に計算してみましょう。
- 被相続人:母
相続人:長男22歳、次男17歳2ヶ月
未成年者控除前の相続税額:長男100万円、次男20万円
①次男の未成年者控除額
(20歳-17歳(端数は切り捨て))✕10万円=30万円
②次男の相続税額
20万円-20万円※=ゼロ
※20万円<未成年者控除30万円 ∴20万円
③長男の相続税額
100万円-10万円※=90万円
※未成年者控除30万円-次男の相続税額20万円=10万円⬅控除しきれなかった金額
未成年者年齢の引き下げと未成年者控除の関係
未成年者の年齢が民法の改正により2022年4月1日から18歳未満に引き下げられるというのは前述の通りです。
未成年者控除への影響を確認してみましょう。
まずは、通達から確認します。
一番最後の(注)書きが追加されました。
令和4年(2022年)4月1日以降の相続開始案件から20歳となっていた計算式を18歳に引き下げて計算します。控除額が減少するので納税者にとっては不利な改正ですね。
これだけなら難しくないのですが、未成年者控除を複数回適用する場合には若干ややこしくなります。これも通達から確認しましょう。専門家以外は読み飛ばして大丈夫です。
未成年者が複数回相続した場合には、それぞれの相続において未成年者控除の適用が可能です。
ただし、2回目以降の相続では1回目で適用した金額を控除することはできません。
この場合において、2回目の相続が未成年者年齢引き下げ後の令和4年4月1日以降だった場合にどのように計算すべきかを上記の通達で述べているのです。
ややこしいので具体例を使って確認しましょう。具体例は国税庁HPの設例と同じです。
2回目の控除額計算における1回目の控除額を20歳ではなく18歳として再計算するのがポイントです。(赤字部分)
戦略的未分割申告
未成年者が共同相続人にいる場合にはその未成年者に法定相続分相当の財産を取得させなければならず、未成年者である子に何千万円、何億円もの財産を所有させるのは問題があると考える親権者も実務上は多いです。
また、遺産が1億6,000万円以下の場合にはすべての遺産を配偶者が相続することにより配偶者の税額軽減により相続税の負担をゼロにすることができますが、未成年者に相続させる必要がある場合には相続税の負担も生じてしまいます。
このような場合に、未成年者が成人になるのを待って遺産分割協議をする方法が考えられます。
この際に未成年者が成人になる前に相続税申告期限が到来してしまった場合には、未分割で一度相続税申告をする必要があります。
なお、この戦略的な未分割申告を使えるケースは、その未成年者の年齢が20歳に近い場合に限られます。
すなわち、未成年者の年齢が成人になるまで3年以上ある場合には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署に提出する必要があり、共同相続人の中に未成年者がいるだけの理由では承認されない可能性が高いためです。(提供:税理士法人トゥモローズ)