不動産売却時に得られる利益には所得税や住民税が課せられる。動く金額が多いため税額も多くなるが、「3,000万円の特別控除」を利用できれば大きな節税効果が期待できる。制度を適用できる条件や手続き、利用する際の注意点について解説する。

3,000万円特別控除に関するQ&A

3000万円,特別控除
(画像=PIXTA)
Q


不動産を売った際にかかる譲渡所得税って?

土地や建物を売却して生じた所得を譲渡所得という。譲渡所得には所得税や住民税がかかり、これらを併せて「譲渡所得税」という。譲渡所得税には分離課税制度が採用されており、不動産の所有期間により、2つの税率が設定されている。

土地や建物を売却して生じた所得を譲渡所得という。譲渡所得には所得税や住民税がかかり、これらを併せて「譲渡所得税」という。譲渡所得税には分離課税制度が採用されており、不動産の所有期間により、2つの税率が設定されている。


Q


3,000万円特別控除とは?

マイホームを売却して得た譲渡所得から、最大3,000万円を控除できる制度が「3,000万円特別控除」である。所有期間に関係なく利用でき、譲渡益が3,000万円に満たない場合は税額が0になる。

マイホームを売却して得た譲渡所得から、最大3,000万円を控除できる制度が「3,000万円特別控除」である。所有期間に関係なく利用でき、譲渡益が3,000万円に満たない場合は税額が0になる。


Q


どんな住宅が対象になる?

3,000万円特別控除を受けるためには、居住用として所有していた住宅を売ることが条件である。以前住んでいた場合は、住まなくなった日から3年目の年末までに売却していれば、適用条件を満たす。

3,000万円特別控除を受けるためには、居住用として所有していた住宅を売ることが条件である。以前住んでいた場合は、住まなくなった日から3年目の年末までに売却していれば、適用条件を満たす。

不動産売却時にかかる税金

●「譲渡所得税」は売却益にかかる税金

土地・建物・株式などの資産を譲渡することで生じる所得を「譲渡所得」という。所得を得ると所得税と住民税がかかり、不動産を売却して得た譲渡所得にも所得税と住民税がかかる。この2つを併せて、一般的に「譲渡所得税」という。

譲渡所得税を計算する場合、まずは課税譲渡所得を算出する必要がある。譲渡所得の金額は、以下のように導きだす。

・課税譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額

収入金額とは、不動産などを売却した際に受け取る金額のことである。金銭以外の物や権利を得た場合は、それらの時価が収入金額となる。

取得費は、土地や建物の購入代金や建築代金、購入時にかかった各種税金、仲介手数料、立退料、測量費、設備費、改良費などが該当する。

譲渡費用とは、土地や建物を売るために直接かかった費用のことをいう。仲介手数料、売主が負担した印紙税、立退料などがあてはまる。

特別控除額とは、土地や建物を譲渡した際、一定の要件を満たす場合に適用されるものである。

上記の計算で導きだされた課税譲渡所得金額から、譲渡所得税を算出する。

●譲渡所得税の計算方法

所得税の課税方法には、総合課税と分離課税の2種類がある。給与所得や事業所得などは総合課税であり、所得を合算した合計額に対応した税率により税額を算出する。

一方、分離課税の対象となる所得は合算できず、それぞれに定められた税率で税額を計算する。譲渡所得税には分離課税制度が採用されている。

また、譲渡所得税の税率は、不動産を所有していた期間により、以下のように分けられる。

   所有期間  所得税  住民税  復興特別所得税  合計税率
 短期譲渡所得  5年以下  30%  9%  0.63%  39.63%
 長期譲渡所得  5年超  15%  5%  0.315%  20.315%

譲渡所得税は、課税譲渡所得金額にそれぞれの合計税率を掛けて算出できる。

譲渡所得税を安くできる3つの控除制度

●3,000万円特別控除の特例

譲渡所得税を安く抑えられるいくつかの制度の中で、代表的なものが「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」である。

マイホームなどの居住用財産を売却した際、所有期間に関係なく、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる制度である。

●10年超所有軽減税率の特例

10年以上所有していた住宅を売却する場合、譲渡所得税を安くできる制度である。課税譲渡所得のうち6,000万円を超えた部分については所得税と住民税の合計税率は20.315%、6,000万円以下の部分は14.21%となる。

3,000万円特別控除の特例と併用できるため、10年以上所有していた住宅を譲渡する場合は忘れずに利用しよう。利用する場合は確定申告が必要である。

●特定居住用財産の買換え特例

元の住宅の売却額より高い住宅に買い替えた場合、譲渡所得への課税を次の売却時まで繰り延べられる制度である。

例えば、2,000万円で購入した住宅を3,000万円で売却した場合、通常は利益の1,000万円に税金がかかる。しかし、売却額3,000万円より高い住宅に買い替えた場合は、1,000万円への課税が次回の売却時まで持ち越せる。

ただし、繰り延べた譲渡所得は次の売却時の譲渡所得に加算され、合算した金額をもとに譲渡所得税が課されることになる。

この特例は、2021年12月31日までに売却した住宅に適用できる。

3,000万円特別控除とは

●制度の概要

居住用財産を売却して得た譲渡所得から、3,000万円を控除できる特例のことを「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除の特例」という。譲渡益が3,000万円未満なら税額は0となる。

マイホームの売却利益のうち、3,000万円を「なかったもの」として扱えることから、大きな節税効果につなげられる制度である。

●計算方法

前述した「譲渡所得税」の計算式をもう一度見てみよう。

・課税譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
・譲渡所得税=課税譲渡所得×税率

3,000万円特別控除を適用して譲渡所得税を計算する場合は、最後に差し引く「特別控除額」に、特別控除として差し引ける3,000万円をあてはめて、課税譲渡所得を算出する。

例えば、購入後5年以内の居住用のマンションを、特例を利用して売却したケースを考えてみよう。5,000万円で売却し、取得費は800万円、譲渡費用は200万円かかったとする。

・5,000万円-(800万円+200万円)-3,000万円=1,000万円
・1,000万円×39.63%=396万3,000円

一方、特例を利用しない場合は以下のようになる。

・5,000万円-(800万円+200万円)=4,000万円
・4,000万円×39.63%=1,585万2,000円

このように、3,000万円特別控除を利用すれば、譲渡所得税に大きな差が生まれる。

●利用条件

3,000万円特別控除を利用する主な条件としては、以下のようなものが挙げられる。

・自分が住んでいる家屋を売却するか、家屋と一緒にその敷地や借地権を売ること
・以前住んでいた場合は、住まなくなった日から3年目の年末までに売ること
・家屋を取り壊している場合は、取り壊した日から1年以内に敷地の譲渡契約を交わし、かつ住まなくなった日から3年目の年末までに売ること。加えて、譲渡までに貸駐車場などの目的で使用していないこと
・売却した前年と前々年に、この特例を利用していないこと
・売った年・前年・前々年に、マイホームの買換え・交換の特例を利用していないこと
・売手と買手が、親子・夫婦・生計を一にする親族など、特別な関係でないこと

また、以下に挙げるような家屋には、この特例は適用されない

・この特例を受けることのみを目的として入居した家屋
・別の居住用家屋が建つまでの仮住まいとして使うなど、一時的な目的で入居した家屋
・趣味・娯楽・保養の目的で、別荘などのように所有する家屋

●手続き方法と必要書類

3,000万円特別控除の特例を受けるためには、マイホームを譲渡した翌年に確定申告が必須であり、確定申告書に以下の書類を添付しなければならない。

・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
・住民票の写し
・戸籍の附票の写し・消除された戸籍の附票の写しなど(マイホームを売った人が、そのマイホームを居住の用に供していたことを明らかにする必要がある場合、マイホームの売買契約日の前日にそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合)

提出する確定申告書は、「申告書B第一表、第二表」および「申告書第三表(分離課税用)」である。これらの書類に特例の適用を受ける旨を記載し、上記書類を添付して提出すれば、手続きは完了である。

3,000万円特別控除の注意点

●売却のタイミングによっては利用できない

3,000万円特別控除を受けるには、売却直前まで、売る人の自宅であったことが条件の一つである。以下のようなケースは注意しよう。

・子が相続するケース

父が亡くなった後に子が相続した住宅を売却する場合、2人が同居していたのであれば特例は利用できる。しかし、別居していたなら利用できない可能性が高い。

別居している場合は、父が亡くなる前に子へ相続していれば、住宅は子のマイホームとなるため、特例を利用できるだろう。

・配偶者が施設に入ったケース

夫の所有する住宅に夫婦で住んでおり、妻が老人ホームへ入った後に夫が亡くなった場合、妻が相続して自宅を売却しても、相続後に引き続き老人ホームへ入っていれば特例は利用できない。

このケースでも、特例を利用したいなら、夫が生前に自宅を売却する必要がある。

●他の特例との併用は不可

ローンを組んで住宅を購入する場合は、「住宅ローン控除」を受けられる可能性がある。住宅ローン控除とは、年末のローン残高の1%相当額を、原則として10年間、所得税から控除できる制度である。

1年あたり最大で40万円の控除を受けられる可能性があるため、10年間では400万円の節税効果が期待できる。所得税から控除しきれない分は住民税から控除することが可能だ。

ただし、3,000万円特別控除は、住宅ローン控除と併用できない。どちらがより節税効果が大きくなるのか、シミュレーションして比較しよう。

●見せかけの自宅は居住用とは判断されない

実際には居住していないにもかかわらず、自宅を装って売却しようとした場合、税務調査で実態を深く追及されることになるだろう。

例えば、賃貸用として購入したマンションに無理やり住みこみ、自宅として売却しようとするケースは、実際に多々見られる事例である。

仮住まいや別荘とみなされれば、3,000万円特別控除の特例は利用できない。本当にそこが生活の拠点だったのかという点においては、取り締まりが厳しくなっている。