仕入税額控除は、消費税の納税額に大きな影響を与えるポイントである。適切に計算できなければ、課税事業者のキャッシュフロー悪化を招きかねない。仕入税額控除の基礎知識や計算方法、注意点について理解を深めよう。

仕入税額控除に関するQ&A

仕入税額控除,計算方法
(画像=PIXTA)
Q


仕入税額控除とは?

課税売上の消費税額から、課税仕入れの消費税額を差し引いて計算することを、仕入税額控除という。消費税を算出する際の「経費」のようなものであり、仕入税額控除の金額が大きくなるほど、消費税の負担額は小さくなる。

課税売上の消費税額から、課税仕入れの消費税額を差し引いて計算することを、仕入税額控除という。消費税を算出する際の「経費」のようなものであり、仕入税額控除の金額が大きくなるほど、消費税の負担額は小さくなる。


Q


仕入税額控除にはどのような計算方法があるの?

仕入税額控除の計算方法は、原則課税と簡易課税に分けられる。原則課税には、要件別に「全額控除」「個別対応方式」「一括比例配分方式」の3種類がある。簡易課税は、実務処理の手間を軽減する目的で定められた制度である。

仕入税額控除の計算方法は、原則課税と簡易課税に分けられる。原則課税には、要件別に「全額控除」「個別対応方式」「一括比例配分方式」の3種類がある。簡易課税は、実務処理の手間を軽減する目的で定められた制度である。

Q


どの計算方法が有利?

控除額が最も大きくなりやすい全額控除を選択できれば、納付税額の点においては有利である。全額控除を選べない場合は、一括比例配分方式に比べ、非課税対応仕入を無視できる個別対応方式のほうが、多くの企業で有利になるだろう。

控除額が最も大きくなりやすい全額控除を選択できれば、納付税額の点においては有利である。全額控除を選べない場合は、一括比例配分方式に比べ、非課税対応仕入を無視できる個別対応方式のほうが、多くの企業で有利になるだろう。

仕入税額控除の基礎知識

●仕入税額控除とは

消費税を納めなければならない事業者が、仕入れで発生した消費税を売り上げの消費税から差し引いて計算することを、仕入税額控除という。

例えば、税抜き2,000円の商品が取引される場面を考えてみよう。消費税は10%とする。

・メーカー→販売店(仕入額:税込み990円)→消費者(購入額:税込み2,200円)

販売店は消費者から200円の消費税を受け取るが、メーカーから仕入れた際、すでに90円の消費税をメーカーに支払っている。この90円はメーカーが消費税として納めるものなので、販売店が消費者から受け取った200円のうち、メーカーに支払った90円を控除した110円のみ、消費税として納めればよい。販売店が消費税を200円納付すると、一部を二重で納めることになるためだ。

このように、仕入税額控除は二重課税を防ぐための仕組みである。所得控除や税額控除で使われる「控除」とは、意味合いが異なっていることに注意しよう。

●仕入税額控除の対象

仕入税額控除の対象となる取引(課税仕入れ)には、以下のようなものが挙げられる。

・商品や原材料などの購入
・機械・建物・車両・器具備品などの購入または賃借
・広告宣伝費・厚生費・接待交際費・通信費・水道光熱費などの支払い
・事務用品・消耗品・新聞図書などの購入
・修繕費や外注費の支払い
・加工賃や人材派遣料、警備や清掃などの外部委託料

給与などの支払いは、課税仕入れとなる取引には含まれない。

●仕入税額控除の要件

課税仕入れにかかる消費税額控除の適用を受けるためには、区分経理に対応した帳簿と、事実を証明する区分記載請求書を保存しなければならない。保存期間は以下のように定められている。

・帳簿:閉鎖の日から7年間
・請求書:受領した日の属する課税期間の末日の翌日から2ヵ月を経過した日から7年間

ただし、6年目と7年目はどちらか一方の保存でよいとされている。また、税込支払額が3万円未満であった場合は、法定事項が記載された帳簿のみ保存すればよい。

仕入税額控除の要件となる帳簿への記載事項は以下のとおりである。

・仕入れの相手方の氏名または名称
・仕入れを行った年月日
・仕入れにかかる資産または役務の内容
・仕入れにかかる支払対価の額(消費税額の相当額を含む)

また、請求書への記載事項は以下のように定められている。

・書類作成者の氏名または名称
・課税資産の譲渡などを行った年月日
・課税資産の譲渡などにかかる資産または役務の内容
・課税資産の譲渡などの対価の額
・書類の交付を受ける当該事業者の氏名または名称

仕入税額控除の計算方法

●原則課税と簡易課税がある

仕入税額控除の計算方法には、課税売上割合や課税売上高を考慮して計算する「原則課税」と、課税売上高の税額に「みなし仕入率」をかけて計算する「簡易課税」がある。

原則課税の計算方法は、要件別に「全額控除」「個別対応方式」「一括比例配分方式」の3種類に分けられている。

仕入税額控除を計算する際は、以下の計算式で課税売上割合を算出しなければならない。課税売上高は、税抜きの金額を使用する。

・課税売上割合=課税売上高÷(課税売上高+非課税売上高)

課税売上割合が95%以上なら全額控除が使えるが、95%未満の場合は個別対応方式か一括比例配分方式を選択する必要がある。それぞれの計算方法を以下に紹介する。

●全額控除

課税売上割合が95%以上かつ年間の課税売上が5億円未満なら、仕入税額控除の計算方法として全額控除が使える。全額控除では、課税仕入れにかかったすべての消費税を控除する。

例えば、課税売上高が税込み2,200万円(消費税200万円)、課税仕入れ額が税込み660万円(消費税60万円)、広告宣伝費が税込み110万円(消費税10万円)の場合、納付する消費税額は以下のように計算できる。

・200万-(60万円+10万円)=130万円

この場合の仕入税額控除は70万円である。

●個別対応方式

課税売上割合が95%未満、または課税売上高が5億円を超えている場合に使える計算方法の一つが、個別対応方式である。

個別対応方式では、課税仕入れを以下の3つに区分する必要がある。

1. 課税売上に対応する仕入れ
2.非課税売上に対応する仕入れ
3.課税売上と非課税売上に共通する仕入れ

1の消費税は全額控除できるが、2の消費税は控除できない。3に関しては、課税売上割合の分だけ控除できる。計算式は次のようになる。

・課税売上対応仕入れ+共通対応仕入れ×課税売上割合=仕入税額控除額

例えば、課税対応仕入れの消費税が300万円、非課税対応仕入れの消費税が50万円、共通対応仕入れの消費税が100万円、課税売上割合が80%の場合、仕入税額控除は以下のように計算できる。

・300万円+100万円×80%=380万円

●一括比例配分方式

個別対応方式と同じ要件を満たしている場合、計算方法として一括比例配分方式も選択できる。仕入税額控除の対象となる金額は、以下の計算で算出される。

・仕入れにかかったすべての消費税×課税売上割合

個別対応方式で挙げた例と同じ状況で、一括比例配分方式を採用した場合、仕入税額控除の計算は以下のようになる。

・(300万円+50万円+100万円)×80%=360万円

個別対応方式に比べ、一括比例配分方式は仕入区分する必要がなく計算も楽だが、上記計算のとおり仕入税額控除の金額が少なくなるケースがあるため、損をする可能性がある。

●簡易課税制度

実務負担を減らす目的で定められている制度が簡易課税制度である。課税期間の前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下で、「消費税簡易課税制度選択届出書」を事前に提出している事業者であれば、簡易課税制度を利用できる。

簡易課税制度における仕入税額控除額の計算方法は以下のとおりである。

課税売上高の税額×みなし仕入率

仕入れにかかった消費税額を計算する必要がなく、仕入税額控除額をシンプルに算出できることがメリットである。

みなし仕入率は、事業を以下の6つに区分し、それぞれ個別に設定されている。

・第一種事業(卸売業):90%
・第二種事業(小売業など):80%
・第三種事業(製造業など):70%
・第四種事業(その他の事業):60%
・第五種事業(サービス業など):50%
・第六種事業(不動産業):40%

事業内容によっては、簡易課税制度を利用したほうが、仕入税額控除の金額を増やせる場合がある。ただし、簡易課税制度を選択した事業者は、原則として、2年間はほかの計算方法に変更することはできない。

仕入税額控除で押さえるべきポイント

●どの計算方法が有利か

条件を満たしていれば、控除額が最も大きくなりやすい全額控除が有利である。計算する際も課税仕入れを見分けるだけでよいため、事務が煩雑になることもないだろう。

全額控除を選択できなければ、一括比例配分方式より個別対応方式のほうが、有利になる場合が多い。個別対応方式は非課税対応仕入れを計算しなくてよく、大半の企業では課税対応仕入れのほうが多いと予想できるからである。

実務処理の手間という観点から考慮すれば、仕入れ自体を無視できる簡易課税制度が圧倒的に有利だろう。ただし、2年間継続することを条件としているため、取引状況なども考慮して慎重に見極める必要がある。

●一括比例配分方式の継続義務

不動産販売事業者や介護事業者など、非課税売上に対応する仕入れが多い事業者にとっては、一括比例配分方式が有利な場合もある。

ただし、一括比例配分方式を選択した場合は、2年間以上継続して適用した後でなければ、個別対応方式への変更はできない。

●簡易課税に変更する方法

原則課税から簡易課税に変更したい場合は、適用しようとする課税期間の開始日の前日までに、所轄する税務署長へ「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出する必要がある。

ただし、この届け出を提出した事業者は、原則として2年間、実額計算による仕入税額控除へ変更することはできない。

また、変更する場合でも、「課税期間の前々年または前々事業年度の課税売上高が5,000万円以下」という条件は満たしている必要がある。

●インボイス導入後の変更点

2023年10月1日より適用が開始される「適格請求書発行事業者登録制度(いわゆるインボイス制度)」では、「適格請求書発行事業者」が交付する「適格請求書(いわゆるインボイス)などの保存が、仕入税額控除の適用を受ける要件となる。

税務署が認めた適格請求書発行事業者になると、消費税を納付しなければならない「課税事業者」となる。

現在、売り上げが1,000万円に満たない事業者は「免税事業者」とされ、消費税の納税が免除されている。しかし、免税事業者は課税事業者にはあたらず、インボイスを発行できないため、免税事業者からの仕入れは仕入税額控除の対象から除外されることになる。

したがって、企業によってはインボイス導入後に納税額が大幅に増える可能性があり、免税事業者である中小企業や個人事業主への発注が減る懸念がある。

免税事業者と取引している場合は、課税事業者になってもらうために「消費税課税事業者選択届出書」の提出を要請し、適格請求書発行事業者としてインボイスを発行できるようになってもらう必要があるだろう。

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