給与や賞与と同様に、退職金にも所得税と住民税がかかる。ただし退職金にかかる税金は、給与や賞与と異なった方法で税額が計算される。

この記事では、退職金に対する所得税、住民税の計算方法と、その納税手続きについて解説する。退職金を受給する人だけではなく、退職金を支払う企業の担当者にも読んでいただきたい。

八木正宣
税理士・行政書士・宅建取引士・CFP・1級FP技能士。神戸商科大学卒業後、会計事務所、株式公開準備会社勤務を経て2004年税理士事務所開業。企業の税務顧問と円満相続の手続きを基幹業務とする、税理士法人SBLの代表社員。近代セールス社「バンクビジネス」など税務・会計に関する記事を執筆。著書「身近なエピソードから学ぶ 相続のはじめ方」(パブラボ、共著)」など
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退職金・所得税に関するQ&A

退職金,税金
(画像=PIXTA)
Q


退職金にも税金がかかる?

退職金にも、給与や賞与と同様に所得税や住民税などがかかる。ただし、退職所得控除額以下の退職金には、税金はかからない。

退職金にも、給与や賞与と同様に所得税や住民税などがかかる。ただし、退職所得控除額以下の退職金には、税金はかからない。


Q


退職金の税金は、給与や賞与の場合とどう違う?

長年の勤労に対する報償的な給与であることなどから、退職所得控除を設けたり、ほかの所得と分離して課税されたりするなど、税負担が軽くなるよう配慮されている。

長年の勤労に対する報償的な給与であることなどから、退職所得控除を設けたり、ほかの所得と分離して課税されたりするなど、税負担が軽くなるよう配慮されている。


Q


退職金を一括でもらうか、分割でもらうかで税金も変わる?

一括して受け取れば「退職所得」、分割で受け取れば公的年金と同じように「雑所得」の扱いとなるため、税金の計算方法が異なる。

一括して受け取れば「退職所得」、分割で受け取れば公的年金と同じように「雑所得」の扱いとなるため、税金の計算方法が異なる。


Q


所得税はどうやって納めるの?

退職金は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、確定した所得税が源泉徴収されるため、原則として確定申告をする必要はない。

退職金は、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、確定した所得税が源泉徴収されるため、原則として確定申告をする必要はない。

退職所得とは

退職時の一時的金銭は退職所得に分類

在職中に労働の対価として受け取る給与や賞与は「給与所得」として所得税・住民税が課税される。一方、退職時に支払われる一時的な金銭は「退職所得」に分類され、給与所得とは異なる方法で税金が課せられる。

給与や賞与との税制上の違いは、退職所得はほかの所得とは切り離して税金を計算される(分離課税)点だ。その税金は退職金から天引き(源泉徴収)される仕組みとなっており、原則として確定申告する必要はない。

退職を原因とした、定年退職や役員就任、転職などにより退職金の支払いを受けた場合はもちろん、解雇予告手当を受け取った場合や、勤務先が倒産した場合に未払賃金立替払制度により国から支給される金銭も退職所得に分類される。

受け取り方で税金の計算方法が変わる

勤務先の退職金制度によって、退職金には複数の受け取り方がある。一度にまとめて一時金として受け取るか、一定期間に分割して年金として受け取るか、あるいは一時金と年金を併用して受け取るかを、本人が選べる場合がある。

税務上は、一時金として受け取る部分については退職所得、年金については雑所得となる。年金として受け取った場合の雑所得の金額は、その年中に受け取った年金の総額から、一定の公的年金控除を差し引いた金額となり、給与などのほかの所得と合算されて税率が適用される。一時金で受け取った場合の退職所得の計算については後述する。

退職金を一括で受け取った場合、健康保険や厚生年金などの社会保険料はかからない。一方、年金で受け取った場合は、毎年の国民健康保険や介護保険の対象となる可能性がある。

退職金の受け取り方法を選択する際は、両方の税金や社会保険料のかかり方を比較検討すべきだ。

 形式  一時金 年金 
 受け取り方法  一括で受け取り  一定期間内で分割受け取り
所得の種類   退職所得  雑所得
 所得の計算式  (退職金-退職所得控除)×1/2  年金-公的年金控除
所得税の計算方式   分離課税  総合課税
 確定申告の必要  源泉課税されるため、基本的には不要

死亡により遺族が受け取る場合

在職中に死亡したことによって遺族に支給される退職金は、相続税が課税されるため、所得税や住民税の課税対象とはならない。

なお死亡退職金には、相続税の非課税枠が設けられている。相続人が取得した退職金については、「500万円×法定相続人の数)は相続税の課税対象とならない。

退職所得の受給に関する申告書

提出することが前提

「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職金を受給する前に勤務先に提出する申告書で、入社日や退職日など一定の事項を記載するものだ。この申告書は勤務先から渡されることがほとんどだが、そうでない場合には国税庁のホームページからダウンロードすることもできる。

この申告書を提出しないと、退職所得控除などが適用されず、退職金にかかる税金がかなり増えてしまうので、忘れずに提出しておきたい。

また企業担当者においても、退職者に申告書の提出を求めることは、必須の業務と言える。申告書は勤務先が保管することになっており、税務署や市町村から提出を求められない限り、税務署などに提出する必要はない。

提出がない場合

「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出しない場合は、退職金に課せられる所得税・復興特別所得税は20.42%となる。仮に勤続年数が40年で退職金が3600万円のケースでは、以下のとおり735万1200円の所得税などがかかる。

3600万円×20.42%=735万1200円(1円未満切捨)

一方、申告書を提出した場合は、99万4454円(後述計算例参照)で済む。

このように「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出した場合と、提出しなかった場合の所得税などには大きな差(635万6746円)が生じる。提出し忘れた場合でも翌年に確定申告をすることで、多めに納めた所得税などの還付を受けることができる。

退職所得の計算

退職所得の計算式

所得税および住民税の課税対象となる退職所得は、次の算式で求められる。

(退職金-退職所得控除額)×1/2=退職所得金額(1000円未満切捨)

退職所得は計算上、退職所得控除を差し引いた残額の1/2となる。さらに分離課税方式のため、ほかの所得との合算による累進課税の影響を軽減することができる。退職金の課税は、労働者の長年の勤労に報い、退職後の生活費に充てられることから、税制上優遇されている。

なお、勤続年数が5年以下で、関係先の企業・公官庁を転々と異動する役員などに該当する場合、算式の1/2が適用されない。

退職所得控除の計算方法

退職所得控除額の計算式は、勤続年数が20年以下か超かにより、次のとおりとなる。

 勤続年数  退職所得控除額
 20年以下  40万円×勤続年数
 20年超  800万円+70万円×(勤続年数-20年)

※勤続年数に1年未満の端数があるときは、1年として計算する。

勤続年数1年当たり40万円となり、20年を超える勤続年数の部分には1年当たり70万円の控除がある。なお、障害をもったことが原因で退職した場合は、上記で計算した退職所得控除額に100万円が加算される。

所得税の計算と手続き

所得税の税率

退職所得に適用される所得税率は総合課税に適用されるものと同じで、次のとおりだ。また、2037年までは、所得税額に2.1%を乗じた復興特別所得税が別途課せられる。

 課税所得  税率 年金 
 195万円未満  5%  0円
195万円以上 330万円未満   10%  9万7500円
 330万円以上 695万円未満  20%  42万7500円
695万円以上 900万円未満   23%  63万6000円
 900万円以上 1800万円未満  33%  153万6000円
 1800万円以上 4000万円未満  40%  279万6000円
 4000万円以上  45%  479万6000円

納税方法

退職所得にかかる所得税・復興特別所得税は、退職者に支払われる退職金から天引きされる。天引きした所得税などは、勤務先が退職金支給日の翌月10日までに税務署に納付する。納付には、給与・賞与からの源泉所得税を納めるときの納付書を使用する。

勤務先で「源泉所得税の納期の特例」が適用されている場合は、1月から6月までの退職金支払い分については7月10日、7月から12月までの支払い分については翌年の1月20日が納付期限となる。

確定申告をしたほうが良いケース

このように、退職の際に所得税などを差し引いてくれるので基本的に確定申告の必要はない。ただし、次のケースでは確定申告をすることで、所得税などの還付を受けられる可能性があるので、確認しておきたいところだ。

①勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出せず、所得税20%が差し引かれた場合 ②給与所得・事業所得などほかの所得から差し引ききれなかった所得控除がある場合

住民税の計算と手続き

住民税の税率

住民税は、毎年1月1日時点の住所地で課税される税金で、原則として前年中の所得に対してその翌年に課税される。

ただし退職所得については、ほかの所得と分離して退職所得の発生した年に課税される。退職金の住民税は、退職所得金額に対して、道府県民税4%、市町村民税6%の合計10%となっている。

給与などの所得に対する住民税は、退職した翌年に課税され、住民税の納付書が市町村から送られてくるので税の負担感が強い。一方退職所得に対する住民税は、退職金受給時に天引きされて課税が完了しているので、そのような負担感は少ないと言える。

納税方法

退職所得にかかる住民税は所得税の場合と同様に、退職者に支払われる退職金から天引きされる。 天引きした住民税は、勤務先が退職金支給日の翌月10日までに、退職した年の1月1日時点における住所地の市町村に都道府県民税を含めた金額を納付する。納付には、市町村独自の納入申告書を使用する。

勤務先で「納期の特例」が適用されている場合は、12月から5月までの退職金支払い分については6月10日、6月から11月までの支払い分については12月10日が納付期限となる。

計算例

勤続40年の人が退職金3600万円を受ける場合を例に、所得税・住民税を実際に計算してみよう。

① 退職所得
(3600万円-2200万円)×1/2=700万円(1000円未満切捨)
 ※退職所得控除
 800万円+70万円×(40年-20年)=2200万円
② 所得税
①×23%-63万6000円=97万4000円
③ 復興特別所得税
② ×2.1%=2万0454円(1円未満切捨)
④ 所得税・復興特別所得税計(国税)
② + ③=99万4454円
⑤ 都道府県民税
① ×4%=28万円(100円未満切捨)
⑥ 市町村民税
① ×6%=42万円(100円未満切捨)
⑦ 住民税(地方税)
⑤+⑥=70万円
⑧ 課せられる税金合計
  ④+⑦=169万4454円
⑨退職金手取額
  3600万円-⑧=3430万5546円