年末調整や確定申告の時期によく耳にする「保険料控除」という制度を知っているだろうか。加入している生命保険などの保険料をきちんと申告すれば、多くの人が所得税の負担を抑えることができる。この記事では、保険料控除について詳しく解説する。

確定申告の保険料控除に関するQ&A

確定申告,保険料控除
(画像=PIXTA)

Q


保険料控除とは何か?

保険料控除とは、年末調整や確定申告の際に利用できる所得控除の一種である。当該年度に支払った保険料を申告することで、その金額の一部に相当する額を所得から差し引き、所得税の節税につなげることができる。

保険料控除とは、年末調整や確定申告の際に利用できる所得控除の一種である。当該年度に支払った保険料を申告することで、その金額の一部に相当する額を所得から差し引き、所得税の節税につなげることができる。


Q


保険料控除の対象となる保険は?

保険料控除には「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」の3種類がある。生命保険料控除は「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」が対象で、社会保険料控除は「健康保険」「厚生年金」「介護保険」などを対象としている。

保険料控除には「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」の3種類がある。生命保険料控除は「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」が対象で、社会保険料控除は「健康保険」「厚生年金」「介護保険」などを対象としている。

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保険料控除の申請方法とは?

保険料控除は年末調整と確定申告のいずれかで申請することができる。会社に勤めている人は会社が行う年末調整時に書類を用意すればいいが、年末調整に間に合わなかった会社員や個人事業主などは自ら確定申告を行い、保険料控除を申請しなければならない。

保険料控除は年末調整と確定申告のいずれかで申請することができる。会社に勤めている人は会社が行う年末調整時に書類を用意すればいいが、年末調整に間に合わなかった会社員や個人事業主などは自ら確定申告を行い、保険料控除を申請しなければならない。


Q


保険料控除ではどれくらい控除されるのか?

保険料控除のうち、生命保険料控除はそれぞれ1種類ずつ最大4万円まで控除対象となるため、生命保険料控除では最大12万円を所得から差し引くことができる。地震保険料控除は限度額が5万円に設定されているが、社会保険料控除は限度額の設定はない。

保険料控除のうち、生命保険料控除はそれぞれ1種類ずつ最大4万円まで控除対象となるため、生命保険料控除では最大12万円を所得から差し引くことができる。地震保険料控除は限度額が5万円に設定されているが、社会保険料控除は限度額の設定はない。


保険料控除によるメリットについて

保険料控除という言葉だけではよくわからないかもしれないが、控除とは所得控除のことを指している。1年間に支払った保険料に応じた金額を所得から差し引くことができ、所得税を抑えられるというメリットがある。

重要なのは控除対象となっているのが保険料ということだ。自分や家族のために支払っている保険料を、そのまま所得税の軽減という別の目的に使えるので、ふるさと納税などのように所得控除を目的として新たに何かを行う必要がないというメリットもある。

保険料控除の申請方法とは

そんなメリットのある保険料控除を申請するための方法について解説する。

会社員などの場合は年末調整で保険料控除が行われる

会社員や公務員などの場合、会社側が給与と賞与から天引きした金額をまとめて所得税として税務署に納付する仕組みとなっている。納付にあたり、従業員や職員の1年間の所得計算など税額にかかわる情報をまとめるのが年末調整だ。そのため、会社員は年末調整時にきちんと書類を提出していれば、保険料控除を受けることができる。

年末調整でも確定申告でも保険料控除は受けられる

一方、フリーランスや個人事業主など、会社員以外で年末調整が行われない場合は、確定申告で申請すれば保険料控除が受けられる。年末調整時に書類を提出していないなど、何らかの理由で保険料控除が受けられなかった会社員も、個人で確定申告をすれば保険料控除が受けられる。

会社員でも確定申告をしなければならない場合とは

逆に、会社員であるにもかかわらず年末調整ができず、保険料控除など各種控除を受けるために自分で確定申告をしなければならない人もいる。

・年間2000万円以上の収入がある
・会社に勤めて給与を受け取っているが、給与や退職所得以外の所得金額が20万円以上ある
・2ヵ所以上から給与を受け取っている

以上のいずれかに該当した場合、保険料控除を含む各種控除を年末調整では受けられない。上述の条件に当てはまる人は会社員であっても、確定申告をする必要がある。

保険料控除にはいくつかの種類がある

一口に保険料控除と言っても、「生命保険料控除」「地震保険料控除」「社会保険料控除」の3種類がある。以下、それぞれについて解説する。

生命保険料控除について

生命保険料控除とは「一般生命保険料」「介護医療保険料」「個人年金保険料」の3種類の保険料に応じて、一定の所得控除を受けられる制度である。一般的に保険という名前で思い浮かぶ終身保険や医療保険などは、生命保険料に該当する。

地震保険料控除について

地震保険料控除とは、建物の火災保険に加入した際に特約として付けることができる地震保険の保険料を支払っている人が対象となる。現在、地震保険料のみが対象だが、2006年12月31日以前に契約した長期損害保険の保険料は、地震保険料控除の対象として計上できる。

社会保険料控除について

社会保険料控除とは、国民年金や国民健康保険など、自分や自分と生計が同一である親族の分の社会保険料が対象で、社会保険料に応じた所得控除を受けられる制度である。

生命保険料控除は3種類に分けられる

生命保険料控除は、加入が義務付けられている社会保険などとは違い、自ら加入するかどうか決められる生命保険を対象とした所得控除だ。3種類に分かれており、それぞれについて解説する。

一般生命保険料控除について

一般生命保険料控除とは、終身保険や学資保険など、存命または死亡時に一定の保険金が支払われる保険を対象とした所得控除のことだ。企業のサービス商品でもある保険を対象としているため、保険料や保障内容などもそれぞれ異なるのが特徴である。

介護医療保険料控除について

介護医療保険料控除とは、入院の際や、けがや病気による通院などに保険金が支払われる医療保険や介護保険を対象とした所得控除のことだ。日常生活のけがや病気に対する保険料は介護医療保険料であり、一般生命保険料ではないことに注意しよう。

個人年金保険料控除について

個人年金保険料控除とは、民間企業が提供している個人年金に対する保険料を対象とした所得控除だ。以下の条件を満たしていなければ控除が受けられないため、注意が必要だ。

・年金の受取人が契約者本人あるいはその配偶者であること
・年金の受取人が被保険者本人であること
・10年以上継続的に保険料を支払っていた期間があること
・10年以上にわたって受け取るとして、被保険者が60歳以降に個人年金が支払われること
・個人年金保険料税制適格特約が付加されていること

生命保険料控除には旧契約と新契約がある

上述のように、生命保険料控除は3種類に分かれているが、2012年の法改正以前には、介護医療保険料控除の制度がなく、控除限度額なども異なっていた。法改正以前の旧契約と新契約の保険料控除を受ける場合の違いについて解説する。

旧契約の生命保険料控除を受ける場合

旧契約では、介護医療保険という制度自体がまだ作られていなかった。一般生命保険料控除と個人年金保険料控除はいずれも所得税の控除限度額が5万円で、住民税の控除限度額は3万5000円であった。

新契約の生命保険料控除を受ける場合

一方、新契約の場合、一般生命保険料控除と介護医療保険料控除、個人年金保険料控除の所得税が控除限度額は4万円、住民税の控除限度額が2万8000円と、どちらも旧契約より控除限度額が下がっている。

しかし介護医療保険料控除という新たな制度を作った分、所得税の控除限度額の合計は10万円から12万円となり、合計額の上限は上がっている。

旧・新両方の生命保険料控除を受ける場合

以前から契約していた旧契約に加えて新契約の保険料が発生した場合、保険料控除の申告はどうなるのだろうか。この場合、旧契約、新契約、旧契約と新契約の両方の中からいずれかの方法で申告する。

旧契約のみを申告する場合に限り、旧契約の控除限度額(各5万円、合計10万円)が適用されるが、新契約および旧契約と新契約の両方の場合は、新契約の控除限度額(各4万円、合計12万円)が適用される。

生命保険料控除の計算方法

生命保険料で支払った金額分がそのまま所得控除になるというわけではない。旧契約の場合と新契約の場合、それぞれどのようにして算出するのか解説する。

旧契約の生命保険料控除を受ける場合の計算方法

表1 生命保険料の旧契約

 年間の支払保険料等  控除額
 2万5000円以下  支払保険料等の全額
 2万5000円超5万円以下  支払保険料等×1/2+1万2500円
 5万円超10万円以下  支払保険料等×1/4+2万5000円
 10万円超  一律5万円

国税庁「生命保険料控除」, (2020年12月6日閲覧)より引用

国税庁ホームページに記載されている「生命保険料控除」の旧契約の図表を見ればわかるように、旧契約の保険料控除額は最大5万円だ。一方、1年間の控除上限は10万円と新契約より少ない。

新契約の生命保険料控除を受ける場合の計算方法

 年間の支払保険料等  控除額
 2万円以下  支払保険料等の全額
 2万円超4万円以下  支払保険料等×1/2+1万円
 4万円超8万円以下  支払保険料等×1/4+2万円
 8万円超  一律4万円

国税庁「生命保険料控除」, (2020年12月6日閲覧)より引用

国税庁ホームページに記載されている「生命保険料控除」の新契約の図表を見ればわかるように、新契約の保険料控除額は最大4万円だ。ここだけを見ると、旧契約よりもそれぞれの控除限度額が下がっているように見える。しかし1年間の合計控除限度額は全部で12万円と、旧契約よりも大きくなっていることがわかる。

旧・新両方の生命保険料控除を受ける場合の計算方法

前述したように、旧契約と新契約に同時に加入している場合、計算方法は旧契約の保険と新契約の保険で別々に行う。それぞれ算出した控除額の合計額が生命保険料控除額となる。

地震保険料控除の計算方法

地震保険料控除額は、当該年度に支払った保険料の金額によって変動する。国税庁ホームページに記載されている「地震保険料控除」の図表を見ればわかるように、旧長期損害保険料が1万円より大きく2万円以下の場合のみ、少し計算が必要となる。

表3 地震保険料控除と支払保険料

 区分  年間の支払保険料の合計  控除額
 (1)地震保険料  5万円以下  支払金額の全額
 5万円超  一律5万円
 (2)旧長期損害保険料  1万円以下  支払金額の全額
 1万円超2万円以下  支払金額×1/2+5000円
 2万円超  1万5000円
 (1)・(2)両方がある場合    (1)・(2)それぞれの方法で計算した金額の合計額(最高5万円)

国税庁「地震保険料控除」,(2020年12月6日閲覧)より作成

表3のとおり、通常の地震保険料控除の控除額は最大5万円だ。しかし、旧長期損害保険料の場合、控除額は最大1万5000円となっている。

社会保険料控除の計算方法

社会保険料控除の場合、他2種の保険料控除とは違い、支払った社会保険料の合計金額がそのまま社会保険料控除額となる。社会保険料控除は複雑な計算はないが、自分および生計が同一の親族の社会保険料のうち、控除対象はどれかという点に注意する必要がある。

確定申告の保険料控除を行うための必要書類

確定申告には、さまざまな書類が必要だが、保険料控除で必要な書類について解説する。

生命保険料控除の場合

生命保険料控除を受ける場合、生命保険会社から送られてくる「生命保険料控除証明書」が必要となる。証明書に記載されている保険料等を確定申告書に転記するため、送られてこない場合や紛失した場合は、再発行してもらわなければならない。

地震保険料控除の場合

地震保険料控除を受ける場合、地震保険は建物の火災保険に関する特約であるため、損害保険会社から送られてくる「地震保険料控除証明書」が必要となる。生命保険料控除と同様に、保険料等を転記する。

社会保険料控除の場合

社会保険料控除を受ける場合、他2種の保険料控除とは違い、控除証明書を提出する必要はない。しかし国民年金の保険料に関しては、領収書など支払ったことを証明する書類を添付しなければならない。

保険料控除の注意点とは

保険料控除には、前述したさまざまな注意点があるが、このほかに注意すべき点を解説する。

生命保険料控除の対象期間は1月から12月まで

生命保険料控除の対象期間は、その年度における1月1日から12月31日までだ。2020年度は2020年4月から2021年3月までだが、対象期間は2020年1月から同年12月までとなる。同じ年度内だからといって、2021年1月に支払った生命保険料はその年の控除対象にはならない。証明書類等を年度ごとに分けている場合、注意が必要である。

保険料控除は5年以内に申請する必要がある

前述したように、会社員が何らかの理由で年末調整によって保険料控除を受けられなかったとしても、確定申告で保険料控除を受けることはできる。また5年以内なら過去の分の保険料控除を受けるため、さかのぼって確定申告をすることも可能だ。

しかしあくまで5年以内という期限があるため、そのことを忘れて後回しにすると、期限が過ぎて、さかのぼれないという事態にもなりかねないので注意が必要である。

年末調整でも確定申告でも保険料控除は忘れずに

実際に保険料を支払っているのに、保険料の証明書類を提出していなかったなどのミスで保険料控除を受けられなければ、非常にもったいないことだ。

確定申告をする際に控除証明書の再発行などの手間を増やさないためにも、必要書類の準備や、書類の内容、提出期限などを事前にきちんと確認しておき、必ず期限内に確定申告を行うように心がけることが重要である。