サラリーマンの給料や個人事業主の報酬など、わが国の所得税では、さまざまな種類の所得に「累進課税」という課税方法が採用されている。今回は、累進課税について、よくある誤解も踏まえて、仕組みや計算方法について詳しく解説していく。
1986年生まれ、広島県福山市出身。2009年度公認会計士試験合格後、PwC、DeNA、シンガポールの会計事務所勤務などを経て、独立開業。一般的な法人の会計税務顧問のほか、国際税務相談、シンガポール進出アドバイスなどを通して、国内外を問わず、挑戦している会社や個人事業主を応援している。
所得税の累進課税に関わるQ&A
所得税とは?
所得税とは、個人の1年間(1月1日~12月31日)の所得に対してかかる税金である。
例えば、毎月の給料、フリーランスとして受け取った報酬、ビットコインの売却益など、さまざまな所得に対して所得税が課税される。
所得税の税額計算には、総合課税と分離課税という方法があり、「総合課税」の対象となる所得に対しては、「累進課税」が採用されており、所得が多いほど高い税率で課税される仕組みになっている。
所得税とは、個人の1年間(1月1日~12月31日)の所得に対してかかる税金である。
例えば、毎月の給料、フリーランスとして受け取った報酬、ビットコインの売却益など、さまざまな所得に対して所得税が課税される。
所得税の税額計算には、総合課税と分離課税という方法があり、「総合課税」の対象となる所得に対しては、「累進課税」が採用されており、所得が多いほど高い税率で課税される仕組みになっている。
累進課税って何?
累進課税は、所得が多くなるにつれて段階的に課税する税率が上昇していく計算方法である。所得税のほか、相続税や贈与税などでも採用されている。
この方法は、所得の少ない人は少ない税金を納める一方、所得の多い人はより多くの税金を納めることで、支払い能力に応じた公平な税負担を求める仕組みとなっている。
累進課税には、大きく分けて、単純累進課税と超過累進課税の2種類があり、わが国の所得税は「超過累進課税」となっている。
累進課税は、所得が多くなるにつれて段階的に課税する税率が上昇していく計算方法である。所得税のほか、相続税や贈与税などでも採用されている。
この方法は、所得の少ない人は少ない税金を納める一方、所得の多い人はより多くの税金を納めることで、支払い能力に応じた公平な税負担を求める仕組みとなっている。
累進課税には、大きく分けて、単純累進課税と超過累進課税の2種類があり、わが国の所得税は「超過累進課税」となっている。
単純累進課税と超過累進税率の違いは?
単純累進課税は、課税対象の所得が一定の金額以上となった場合に、その年の所得「全体」に対して高い税率で課税する方式である。
一方、超過累進課税は、課税対象の所得が一定の金額以上となった場合に、「超過した部分」のみ高い税率で課税する方式である。
回答
所得税の計算
総合課税と分離課税の違い
所得税の税額計算には、総合課税と分離課税という方法がある。
総合課税とは、複数の所得を総合(合算)して、その合計額に対して税額を計算する方法である。一方の分離課税は、ほかの所得とは合算せず、その所得のみに対して税額を計算する方法だ。
どのような収入に対して、どちらの方法で計算を行うかは税法で決められており、例えば、以下の表のようになっている。
総合課税 | 分離課税 |
・給料(給与所得) ・個人事業主のとしての所得(事業所得) ・アパートの家賃収入(不動産所得) ・ビットコインの売却益(雑所得) など |
・土地建物の売却(譲渡所得) ・株式の売却(譲渡所得) ・退職金(退職所得) など |
なお、総合課税の対象となる所得に対しては、累進課税が採用されていて、所得が多いほど高い税率で課税される仕組みになっている。
わが国の所得税の累進課税は現在、最高45%の税率となっており、さらに住民税10%の課税もある。著名人などが「稼いでも半分は税金で持っていかれる」と表現するのはこのためである。
あえて総合課税と分離課税に分かれている目的は、分離課税の対象となる所得について、以下のように政策的配慮などがあるためだ。
・不動産の売却益を総合課税に含めてしまうと、たまたま多額の売却益が生じた年度は、給与など総合課税のほかの所得に対する税率も極端に高くなってしまう
・退職金は、その後の老後生活の資金となるものであることや、過去複数年にわたる労働の対価の後払い的性格のものなので退職時にまとめて高い税率で課税することは望ましくない
・株式の売却益や利子、配当などの金融所得に対してシンプルな課税とすることで投資を行いやすい環境を整備する
総合課税の所得税率(国税庁の速算表)
総合課税の累進税率は現状、国税庁が公表している以下の速算表(2020年度)のようになっており、 最低5%~最高45%の7段階の税率で課税される。
繰り返しとなるが、わが国の所得税にかかる累進税率は、超過累進税率であり、速算表上は、控除額を設けることで、所得の増加に応じてなだらかに税額が増えるように調整されている。超過累進税率の詳細については後述する。
所得税の速算表 | ||
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1000円から194万9000円まで | 5% | 0円 |
195万円から329万9000円まで | 10% | 9万7500円 |
330万円から694万9000円まで | 20% | 42万7500円 |
695万円から899万9000円まで | 23% | 63万6000円 |
900万円から1799万9000円まで | 33% | 153万6000円 |
1800万円から3999万9000円まで | 40% | 279万6000円 |
4000万円以上 | 45% | 479万6000円 |
(国税庁:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm )
復興特別所得税について
復興特別所得税は、東日本大震災からの復興に必要な財源確保のために、2013年から2037年までの25年間、個人の所得税に上乗せして課税される税金である。復興特別所得税の税額は、税額控除後の所得税額(外国税額控除前)に対して2.1%を乗じた金額となる。
“超過“累進課税について
所得税についてよく誤解される点として、累進税率の計算方法が挙げられる。
「所得が899万円の人は所得税率23%でよいが、たった2万円増えただけの901万円の人は所得全額に対して33%の税率で所得税が課されてしまう」という誤解である。
もしもそうだとすると、所得899万円の人は税額がおよそ206万円となるが、901万円の人にはおよそ297万円の所得税が課されてしまい、手元にのこる金額は所得899万円の人のほうが圧倒的に多くなってしまう。もちろん、これは誤解である。
前述のとおり、わが国の所得税の累進課税は、単純累進課税ではなく、“超過”累進課税を採用している。超過累進税率は、課税対象の所得が、一定の金額以上となった場合に、「超過した部分」にのみ高い税率で課税する方式である。
イメージとして、単純累進課税の場合は、所得金額と税額の関係が階段状になる。一方の超過累進課税では、所得金額と税額の関係が坂道状態となる。
単純累進課税だと、税率が変更となる基準金額を1円でも超えてしまうと納税額が急に増えるという不都合が生じる。支払い能力に応じた公平な税負担を求める仕組みとしては、所得金額に応じて税額がよりなだらかに増加していく超過累進課税のほうが優れていると言えよう。
これらのケースを速算表にあてはめて超過累進税率で計算してみると、以下のようになる。
・所得899万円
899万円×23% - 63万6000円 = 143万1700円
・所得901万円
901万円×33% - 153万6000円 = 143万7300円
計算の結果、実際には、901万円の所得の人のほうが、2万円多く稼いでいる分に対する所得税として5600円だけ多く納税することになり、妥当と言える。
この5600円は、899万円~900万円までの1万円に対する23%(2300円)と、900万円~901万円までの1万円に対する33%(3300円)の合計である。
累進課税を踏まえた節税策
参考までに、累進課税を考慮して、以下のような節税策をとることがある。
青色事業専従者給与
生計を一にしている配偶者などの親族に対する給与は原則として必要経費にはならないが、特例として、届出書の提出や年齢など一定の要件のもとで、親族への給与支払を必要経費にできる制度がある。
あくまで給与額が妥当な範囲であることを前提とすると、親族に対して給与を支払うことで、所得が分散されて、低い所得税率が適用された結果、世帯全体にかかる所得税の合計は減少する可能性がある。
ただし、青色専従者とした親族については配偶者控除や扶養控除の対象ではなくなる点や、社会保険などの税金以外への影響などもケアして判断する必要がある。
また、青色申告に限らず、白色申告の事業者でも一定の必要経費算入は可能である。
法人化
利益の水準によっては、法人化することで、ビジネス全体の所得にかかる税額を減少できる可能性がある。
これは、所得税が累進課税であることに対して、法人の所得にかかる法人税等については、累進課税ではなく、原則としておよそ30%の税率で課税されるためである。(法人税や法人事業税でも、中小企業の場合には年800万円までは低い税率が適用される場合があるなど、累進課税の要素もあるが割愛する)
累進税率の観点以外にも、社長の給与の経費算入(社長個人側では所得税がかかる。給与所得控除や各種所得控除、税額控除は適用可能)、繰越欠損金の使用期限が長いことや、社会的信用の増加など、法人化にはさまざまなメリットがある。
一方、赤字でも生じる法人住民税の均等割の納税や社会保険への加入義務など、法人化によるデメリットもあるため、目先の税率だけではなく、自社の実情に応じて総合的に判断することが必要である。
各種所得控除
所得税には、各種の「所得控除」と呼ばれる制度がある。これは、納税者の個人的事情に配慮して担税力に応じた納税を実現する目的や、各種の政策的目的から存在する制度である。
よく使われる所得控除として、以下のようなものがある。
所得控除の種類 | 所得控除の概要 |
基礎控除 | 合計所得金額が2400万円以下であれば一律48万円控除できる。2400万円超は、所得に応じて減少。2500万円超では控除なし。 |
社会保険料控除 | 自分自身や一定の親族のために社会保険料を支払った場合、その支払額を控除できる。 |
配偶者控除 | 年間の合計所得金額が48万円以下の配偶者がいる場合、自分自身の合計所得金額に応じて決められた控除額(13万円~38万円)を控除できる。配偶者が老人や障害者の場合は増額あり。 配偶者の合計所得金額が48万円を超える場合でも、配偶者特別控除を使用できる場合がある。 |
扶養控除 | 年間の合計所得金額が48万円以下の配偶者以外の一定の親族を扶養する場合、一定の条件のもと、扶養親族の年齢等に応じて決められた控除額(38万円~63万円)を控除できる。 |
生命保険料控除 | 生命保険料、介護医療保険料、個人年金保険料を支払った場合に、一定限度額までの金額を控除できる。 |
地震保険控除 | 特定の地震保険料を支払った場合に、一定限度額までの金額を控除できる。 |
これらの所得控除は、税率をかける前の所得の段階で金額を減らすことができるため、所得の多い人ほど、税額に与える影響が大きくなる。例えば、所得控除が100万円ある場合、所得税の最高税率45%の人であれば45万円の所得税の減額になるが、逆に、税率5%の人であれば5万円の影響しかない。
個人住民税なども忘れずに!
個人住民税
個人の所得に対しては、所得税のほかに住民税の課税もあるため念頭に置いておく必要がある。所得税同様に分離課税があるものの、多くの所得は一律10%(累進なし)で課税される。また、収入金額にかかわらず一律で課税される均等割もある(例:東京都 年額5000円)。
個人事業税
事業所得や不動産所得などについては、個人事業税が課される場合がある。
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