年金受給者に関する確定申告がどのような扱いになるのか、ご存知だろうか。同じ年金受給者でも確定申告をする必要がある人とする必要がない人がいる。中には自分が確定申告をする必要があるのかどうかわからないという年金受給者もいるかもしれない。今回は年金受給者の確定申告について解説する。

年金受給者の確定申告に関するQ&A

年金受給者,確定申告
(画像=PIXTA)
Q


年金受給者も確定申告は必要なの?

年金受給者でも所得を得ていることには変わりないため、確定申告を行う必要がある。

年金受給者でも所得を得ていることには変わりないため、確定申告を行う必要がある。


Q


年金受給者で確定申告が不要になるケースは?

年金受給者は基本的に確定申告を行う必要があるが、公的年金の受給額が400万円以下であるなどの条件を満たしている場合は、「確定申告不要制度」により確定申告をする必要がなくなる。

年金受給者は基本的に確定申告を行う必要があるが、公的年金の受給額が400万円以下であるなどの条件を満たしている場合は、「確定申告不要制度」により確定申告をする必要がなくなる。


Q


年金受給者が確定申告をする方法は?

たとえ「確定申告不要制度」により確定申告をする必要がなくとも、還付申告や医療費控除などのために確定申告をすることはできる。また、年金受給者が確定申告をする際は、毎年日本年金機構から送られる源泉徴収票をもとにした確定申告を行う。

たとえ「確定申告不要制度」により確定申告をする必要がなくとも、還付申告や医療費控除などのために確定申告をすることはできる。また、年金受給者が確定申告をする際は、毎年日本年金機構から送られる源泉徴収票をもとにした確定申告を行う。

年金受給者で確定申告が必要になるケースは?

重要なのは、「原則として年金受給者は確定申告をしなくてもいいわけではない」ことだ。しかし2012年に「確定申告不要制度」という制度ができたため、現在では一定金額以上の年金を受給している人を除き、条件を満たした多くの年金受給者は確定申告をする必要がなくなっている。

その条件は以下のとおりである。

・国民年金や厚生年金など公的年金の支給額の合計が400万円以下であり、すべてが源泉徴収の対象となっていること
・公的年金など雑所得以外の所得の合計金額が20万円以下であること

以上2つの条件を満たした場合、所得税の確定申告の必要がなくなる。つまり2つの条件のいずれかに該当しない場合は、確定申告が必要になる。ここからは、それぞれのケースについて解説する。

●年間の年金の総支給額が400万円を超える場合は確定申告が必要

公的年金の支給額の合計が400万円以下の場合、確定申告は不要だが、400万円をわずかにでも超えていれば確定申告をしなければならない。公的年金とは、国民年金や厚生年金など対象者が加入しなければならない年金であり、個人年金保険など任意で加入を決められる年金は含まれない。

もっとも、基準となっている金額が400万円と大きいため、よほど高額な年金を受給している人でなければこの条件を満たすことができるだろう。

●年金以外の所得が年間20万円を超える場合は確定申告が必要

公的年金の受給以外に通常の給料などにより年間20万円以上を稼いでいる人は、確定申告が必要となる。前述した「公的年金の支給額の合計が400万円以下」という条件を満たしていても、年金以外の所得が20万円超であった場合は確定申告をしなければならなくなるのだ。

ここで注意すべきなのは、「公的年金の支給額の合計が400万円以下」という条件は公的年金の収入金額が基準となるが、こちらでは公的年金などにかかる雑所得以外の所得金額が基準となることだ。

所得は収入から経費を差し引いたものであるため、年金以外の収入が20万円を超えても経費によっては所得が20万円以下となり、「確定申告不要制度」を受けられる場合もある。

年金受給者が確定申告をするメリットは?

年金受給額が400万円以下であるなどの条件を満たした人は、確定申告不要制度によって確定申告をする必要がなくなる。だが、確定申告不要制度の対象者は確定申告ができなくなるわけではない。

税金が還付されるなど、場合によっては確定申告をして得られるメリットもある。

●確定申告をすると税金が還付される可能性がある

確定申告は1年分の所得を計算して所得税を算出するものであり、すでに払っていた所得税額が大きすぎたことによる還付を受けられる場合もある。確定申告不要制度の対象者で毎年確定申告をしていない人でも、確定申告をしたほうが得となるケースもあるのだ。

還付を受けるためには確定申告を行わなければならない。そのため事前に自身が還付の対象になるのかを調べて必要書類を準備し、期限までに間に合うよう手配しよう。

●税金が戻ってくる5つのケース

どのような状況であれば確定申告で年金受給者のもとに税金が戻ってくるのか。5つの具体的なケースについて解説する。

まず前提として、還付を受けられるのは赤字になってしまった個人事業主や所得税を納付した後から控除を受けて所得税額が下がった人だ。そのような人が還付申告をすることで、すでに納付した分と最終的に確定した所得税額の差額分だけ還付金を受け取れるようになる。

・医療費控除

年金生活を送っている人が適用の対象となりやすいものの1つ目が、医療費控除だ。医療費控除とは1年間で医療費の自己負担額が10万円以上かかった場合に対象となる控除だ。

年金を含む年収の合計額が200万円未満の人は、年内に支払った医療費が総所得金額の5%以上であれば医療費が10万円以下でも医療費控除の対象となる。年金生活を送っている年配の人々の中には日頃から病院に通っている人など、医療費がそれなりに大きい人も多く、医療費控除による還付を受けるために確定申告をしたほうがいい場合もある。

・住宅ローン控除

2つ目に住宅ローンで建物を購入したり改築したりした際に、控除の対象となり還付を受けられる場合がある。この場合は住宅借入金等特別控除の対象となり、控除適用後は10年間住宅ローン残高の1%分が毎年控除される。

年金生活を送る年配の人の中には、年金生活を送るような歳になってから新たな住宅に移り住むために住宅ローンを利用する人も多い。また、家の中をバリアフリー化するための改修工事を行う場合もあるだろう。

バリアフリー化は特定増改築に該当するため、5年間にわたり住宅ローン残高の2%が控除される。新たな住まいを購入する場合でも、バリアフリー化の工事をする場合でも住宅ローンを利用することがある。住宅ローンの控除期間中は確定申告不要制度の対象者でも確定申告をしたほうが還付申告によって得となるかもしれない。

・寡婦(夫)控除、扶養控除

3つ目に配偶者の有無や扶養親族の数が変更となった場合に控除を受けられる場合がある。例えば配偶者と離婚した場合や配偶者が亡くなった場合に適用される寡婦(夫)控除や、結婚や親への金銭的援助などによって扶養対象が増えた場合に適用される扶養控除などだ。

このように親族の構成に何らかの変化が出ると新たな控除の対象となることもあるため、親族構成に変化が出るたびに確定申告を受ける必要があるかどうかを確認したほうがいい。

・保険料控除

4つ目に保険料控除によって還付を受けられる場合もある。年金受給者の中には、ある程度高額な生命保険料を毎年支払っている人も少なくない。生命保険料や社会保険料もそれぞれ生命保険料控除、社会保険料控除という控除の対象となる。確定申告不要制度の対象者でも確定申告をしなければ還付金を受け取れず、損をすることにもなりかねないので注意が必要だ。

保険料控除を受けるために確定申告を行う場合、金額が毎年ほぼ一定なため確定申告も毎年行わなければならなくなるかもしれない。その際に発生する損と得のどちらを取るのかを一度よく考えてみるといいだろう。

・雑損控除

5つ目に自分を含む家族が自然災害や盗難被害に遭った場合も控除となり、還付申告を受けられることがある。これを「雑損控除」といい、申請の際には「盗難届」などそれぞれの損害内容ごとに別の申請書類が必要となる。申請さえすればその損害額をある程度補填できる金額分の控除を受けられる。

万が一、天災や盗難などによって何らかの損害を受けた場合は、損害額をきちんと計算しておこう。

●確定申告をすると投資での損失額を翌年以降へ繰り越せる

年金受給者の中には株式などの投資を行っている人もいるだろう。ときには赤字となり、損失が出てしまうこともある。そんなときは「譲渡損失の繰越控除」という制度を利用することで、翌年度以降の所得から差し引くことができ、所得税を減らすことができるのだ。

「譲渡損失の繰越控除」は最長で3年間赤字を繰り越すことができる。これにより仮に投資による損益が年によって大きく変動したとしても、黒字の年度における所得税の負担を抑えられるようになる。

年金受給者の確定申告の書き方と提出方法は?

以上のように高額な年金受給者や還付を受ける年金受給者の人々は確定申告が必要となる。では年金受給者の場合、どのような書類が必要で、どういった手順で確定申告を行っていくだろうか。

●確定申告の必要書類

年金受給者が確定申告を行う際に必要となる書類は、毎年日本年金機構から送られてくる公的年金の源泉徴収票である。また不動産所得など年金以外に所得がある人は、その所得を証明するための収支内訳書や決算書も必要となる。

さらに前述した還付を受ける場合は、それぞれのケースに合わせた書類も必要となる。例えば医療費控除を受ける場合は医療費控除の明細書、住宅ローン控除を受ける場合は借入金残高証明書や住宅借入金等特別控除額の計算明細書だ。

●源泉徴収票の内容を確定申告書の所定欄に転記

個人事業主ではない年金受給者が使用する際の確定申告書は「確定申告書A」といって、事業主が使用する「確定申告書B」に比べると簡易的な内容となっている。

公的年金の源泉徴収票が届いた人は、記載されている年金の金額を確認し確定申告書内の「所得の内訳」という所定欄に金額をそのまま転記する。その際個人年金保険にも加入している人は「個人年金の支払調書」からその年金保険金額も転記しなければならない。

●確定申告書を源泉徴収票とともに税務署に提出

必要書類をそろえたら、保管分を除いた書類を税務署に送付するか直接持ちこむ。その際、提出期限は3月15日となっている。期限日が土日、祝日と重なっていた場合は税務署の翌営業日が期限日となる。

またマイナンバーカードとカードリーダーを用意して事前に手続きをしておけば、e-Taxですぐに提出が可能だ。書類の準備に手間取る場合や書類の送付や持ちこみに時間がかかる場合は、e-Taxの利用も選択肢に入れるといいだろう。