2015年1月1日「相続税および贈与税の税制改正」があり、基礎控除額が大きく減額された。この改正により相続税納税対象となる人は増加し、改正前は100人に4人が納税対象であったのに対し、改正後は100人に7人になるであろうといわれている。特に、都市部に不動産を所有する人などは、新たに納税対象となり、「どのような方法があるのか」「何に気を付けたらいいのか」等、心配になっているのではないだろうか。

今回は相続税対策の失敗例をいくつかあげ、失敗しないためにはどのように考え、どうすれば良いのかを紹介する。

失敗例1:生前贈与での節税に失敗

事例を出して説明しよう。自宅不動産は売れないし、かといって相続税を払うのは嫌。それなら節税のためにせめて預金だけでも生きている間に家族にあげようと考えたA氏の例。

A氏は節税について調べ、「贈与契約書を作成しておけば、年間110万円までなら贈与税が非課税」であることを知った。それから「毎年契約書を作成して、110万円を家族の口座に送金し続ける」という対策を行っている。

この事例は、贈与契約書を取り交わしたところで、それが特定の人に複数年贈与されているのであればそれは「一括贈与」とみなされてしまうよくある失敗例だ。贈与税は、相続税に比べて税率は高いので驚くような額の税金がかかる。この方法を取るなら毎年贈与税を払う前提で実行すべきである。

失敗例2:妻にすべて相続し節税。のはずが…

続いての事例は、東京に住むB氏の例。彼の法定相続人は妻と息子一人。財産は、自宅と現預金や株券などで財産評価額は1億円、そのほとんどが自宅不動産だ。自分が死んだら相続税がかかるのか心配になって調べてみると、やはりかかってしまうことが判明。だがその時「配偶者控除1億6000万円まで非課税」という文字が目に入った。早速息子に「もし自分が死んだら全部妻へ相続すれば税金がかからないからそうしてくれ」と頼み、息子も了解した。

この事例の場合、確かに配偶者がすべて相続すれば税金はかからない。しかしその後、配偶者が亡くなったときに財産の全てが子どもへ相続される。もし子どもが一人であれば、控除額は少なく、多額の相続税を支払わなければならないこととなる。不動産の割合が多いのであれば、払えるキャッシュがないため税金の支払いはより深刻な問題となってしまうだろう。

失敗例3:節税のためのアパート経営

最後の事例は、自宅以外に首都圏に土地を持っているC氏の例。「借金をして賃貸アパートを建てれば、財産評価が下がるので相続税が節税され、その上賃貸収入が入ってくる」という話を聞きやってみようと考えた。金融機関や建設業者と打ち合わせながらアパートの建設を進めている。

C氏の思惑通り上手くいけば大きな節税になるだろう。ただし、アパート経営は慎重に行いたい。立地や賃料、入居率など信頼できる専門家と相談して進める必要がある点に留意してほしい。

入居者が計画通りに入れば借入金も返済でき相続税対策にもなる。しかし、自分が亡くなったあともそれが続くだろうか。近くに同じようにアパートが建ち入居者が激減する可能性もあり、そうなれば借金の返済が大きくのしかかってくる。このように引き継いだ家族にとってアパート経営が大きな負担となることも十分考えられる。

不動産は自由に捨てることができない、アパート経営のノウハウを家族に事前に伝えることは当然であるが、将来不動産売却も視野に入れておくべきである。売却する際に、信頼できる不動産ブローカーがいる必要もある。

納税額以外にも想像力をはたらかせて

まず、相続税がかかるか否かを知ることからはじめよう。現在の資産評価額と法定相続人の数を把握し、資産評価額から基礎控除額を引いてみる。「多分相続税がかかるであろう」とか「業者が言ってきたから」という他人事としてではなく、税理士など専門家の力を借りてでも自分で正確に知るという風に、相続を「自分ごと化」することが大切だ。

その上で節税を考えてみる。方法については、専門家の声を聞くことは必要だが、なにより自分が納得のいくものを選んでほしい。

また、ただ納税額を減らすことだけを考えてもいけない。納税するとなれば基本的に現金で納める必要がある。残った財産が現金化しにくいものばかりであるなら残された家族は途方にくれてしまう。これもイメージすることが大切だ。

相続は、大切な家族や親族への最後の贈り物である。贈るほうも贈られたほうも「ありがとう」という気持ちになれるようなものでなければならない。そのことを第一に優先したい。

小野みゆき
中高年女性のお金のホームドクター・社会保険労務士・CFP
企業で労務、健康・厚生年金保険手続き業務を経験した後、司法書士事務所で不動産・法人・相続登記業務を経験。生命保険・損害保険の代理店と保険会社を経て2014年にレディゴ社会保険労務士・FP事務所を開業。セミナー講師、執筆などを中心に活躍中。 FP Cafe 登録FP。